263 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/06(金) 19:12:51.96 ID:q24cxmso
「土日使って合宿とかいかないか?」
誰だ、こんな事をハルヒに吹き込んだ大バカ野郎は…俺だ。
過去の自分につくづく言ってやりたい。あの女に余計な事を吹き込むんじゃない!
及ばざるは過ぎたるよりまされり。昔の人は偉かった。昔の俺は馬鹿だった。
世界がひっくり返る直前でハルヒに思いとどまらせたはいいのだがその翌週はハッピーマンデーとやらがある週だった。
もちろん3連休という好機を脳内にホワイトホールを持っている涼宮ハルヒなる女が見逃すはずも無く…。
「3連休はここに行くわよ!」
ハルヒがPCのディスプレイをびしっと指差したのが週も半ばあたりの放課後だった。
朝比奈さんはびっくりして動かなくなってるし古泉はいつものスマイルで問いただそうなんてしない、長門に至っては本から目すら上げない。
俺はため息一つ、立ち上がりハルヒの後ろに立ってディスプレイを覗き込んだ。
「どこに行くって?」
そこにはネットニュースが映し出されていた。
○○県の黒周(くろす)ダムが連日の大雨で決壊。
そのためダムの底に沈んだ村がおよそ60年ぶりに地上に姿を現した。
再び地上に現れた建造物は水流が無かった為に意外にも保存状態が良く当時の生活が伺え知れる様相をしている。
おおよそ、そんな記事とダムの底から現れた建物を撮った写真が何枚か載っていた。
「なんだこりゃ?廃墟探索なんて何が面白いんだ?」
ハルヒは俺の反応が見事に餌にかかった魚に見えたらしい。まぶしいくらいの笑顔と勝利の瞳を輝かせこう言った。
「ただの廃墟じゃないわ!これを見なさい!!!」
溢れんばかりの尊大な態度で机も砕けよとばかりにハルヒがクリックしたのは
264 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/06(金) 19:13:23.08 ID:q24cxmso
「関連記事 黒周村
吸血事件」
黒周ダムに沈んだ黒周村で起きた奇怪な事件についてだった。
60年程前、当時その地方の名士であった某氏が一夜にして村中の未婚の娘を襲い首に噛み付いて回った。
その後、噛まれた娘達は精神に異常をきたし全員死亡。
その死に様が爪と八重歯が伸び瞳が赤くなり肌が白くなった状態で苦しみ抜くという遺族にとって見るに耐えかねるものだったらしい。
襲った某氏を逮捕しようと警察がその屋敷に踏み込んだがもぬけの殻。
結局某氏は逮捕できぬままに屋敷もろとも村はダムの底に沈む事になった。
某氏は以前より邪教崇拝等の噂があり当時は呼び出した悪魔に取り憑かれたのだとまことしやかな噂が近隣に流布した。
資産家であった某氏は海外から貴金属や美術品等を屋敷にかなり持ち込んでおり、それを目当に某氏がいなくなった後かなりの人数が屋敷を家捜ししたがめぼしいものは見つからなかった。
それでもあきらめきれない一攫千金を狙う者の中にはダムの底に潜って探すという強欲なものもいたらしい。
しかし結局価値のあるものが見つかったという記録は残されていない。
「すごいでしょ!」
まるで自分の手柄のように目を爛々と輝かせハルヒが胸を反らす。
後ろにつっかえ棒いるか?
「あー…、もしかしてあれか?この沈んだ黒周村とやらに2泊3日して財宝探しをしようというわけじゃないだろうな」
「というわけで古泉君、寝袋やキャンプ道具、それにスコップやヘッドライトなんかをそろえて頂戴!」
「分かりました手配しましょう」お前は…。
265 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/06(金) 19:13:46.24 ID:q24cxmso
「あ、あの、人が死んだところに行くんですか?」朝比奈さんがおっかなびっくり聞いてくる。
「大丈夫よ、みくるちゃん、肝試しも出来て一石二鳥よ!」
何が大丈夫なのか意味が分からん。投げた石が自分に帰ってきそうな諺の使い方だな。
ほらみろ朝比奈さんが肝試しと聞いてなおの事血の気を引かせているじゃないか。
俺の方に倒れて来ないかな。なんてね。
「金属探知機も備品に入れておいた方が良いでしょうか?」お前は口を開くと余計な事しか言わん。
「入れておいて頂戴!」
言い出しっぺだ、古泉、お前が担げよ。
「過去誰も見つけられなかった財宝をSOS団が見つけるのよ!!」
「いや、そもそも財宝なんて無かったんだとは考えないのか?」
「夜中に村中の女の首に噛み付いて回る様な人間なのよ?!隠し部屋には金銀財宝が隠されているに決まっているわ!」
どういう論理の飛躍だ。酔っぱらいの三段論法でももっと説得力があるぞ。
「ナイフを人数分用意して」
その物騒な言葉の内容にぎょっとして振り返ると長門がページをめくるところだった。
「ナイフが必要」もう一度本を読みながら長門が言った。
「分かりました。ナイフも用意しておきます」古泉が快諾する。
「ナイフだけは明日部室に持って来て」長門ずいぶんナイフにこだわるな。
さて、俺も経験に伴いそれなりに知恵がついてきたのである程度は頭が回る。
大量殺人、犯人行方不明、ダムに沈む、再び現れる、ハルヒが興味を持つ、そこにナイフが必要…とくれば。
おいおいおい、考えたくないぞ、ナイフコンバットなんて慣れない人間がやるもんじゃない。
266 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/06(金) 19:13:58.49 ID:q24cxmso
生兵法は怪我のもと。何より俺は自慢じゃないがナイフで殺されかけた事がある男だぞ。長門に助けられたけど。
この話ホントに自慢にならないな。
廃墟の財宝探索、絶対にろくなことにならない。俺は確信と言って構わない程の予感にたっぷり浸った。
まぁ、よく考えたらいつもの事だがな。ハルヒが何か思いついて俺がいい思いをしたなんて…朝比奈さんのコスプレくらいかな。
「えらいわ有希!転ばぬ先の杖っていうもんね!」
ずいぶん物騒な杖だけどな。
長門が必要と言うならばそれは間違いなく必要になるんだろう。
俺に出来る事はどうか物騒な事になりませんように、とどこかの神様に祈るだけだ。
つまり何も出来ないってわけだ、うん。
パタン。長門が本を閉じた。
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280 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/08(日) 21:27:05.70 ID:XoPEip.o
いつもの坂の下り道、ハルヒは朝比奈さんに怪談話をノリノリで話している。
無理やり聞かされている朝比奈さんは半泣きになってしまってついに長門の後ろに隠れてしまった。
朝比奈さんが長門をすがるなんて珍しい事もあるもんだ。
「何よ、みくるちゃん恐がりね」ハルヒお前ものすごく楽しそうだぞ。
不思議の国にいる猫でもこうはいかないだろうという位のにやにや笑い。
ハルヒそれ悪人の笑い方。
「きょ今日、一人じゃ寝られなくなっちゃいます」
うるうるとした瞳に見上げられると思わず添い寝を申し出したくなる。魅惑的です朝比奈さん。
ところで未来人でもお化けとか幽霊って怖いもんなんですね。
いつの時代でも変わらない人間の性にほっとしたりしなかったり。
「泊まる?」長門が朝比奈さんに話しかける。
言われて朝比奈さんははっと長門から離れてぷるぷる首を振った。
「い、いえそんなご迷惑をかけるような事はできないです。大丈夫です、ごめんなさい」
慌てて恐縮。
「そう」なんの未練も無く歩き出す。
長門は押すって事がないんだよな。
たまには宇宙人と未来人でパジャマパーティーでもすればいいのに。
想像してちょっと頬が緩む。
「なに?変な想像してるでしょ?」
ハルヒがアヒル口をして俺を覗き込んだ。妙な目つきでにらまれて現実に引き戻される。
むむ、俺のカタルシスに水を差しやがって。
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281 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/08(日) 21:27:31.63 ID:XoPEip.o
次の日の放課後、部室に古泉が持って来たナイフはいわゆるサバイバルナイフと呼称されるものだ。
同種類の刃物が5本そろっているとそれだけでなんだか壮観だな。
よく全く同じものを揃えられたもんだ。まぁ詳しくは聞かないが機関からの借り物…かな?
俺はそのうちの1振りを手に取り、鞘から引き出してみた。
重さと光沢が本物である事を主張している。切れますよ、と。
俺にとってはあまり気分のいい感触ではないのですぐに鞘に戻し元通りに置いた。
長門はそれを5本とも束ねると黙って鞄にしまいこむ。
「当日に持ってくる」
そしてナイフと入れ替わりにハードカバーを取り出すといつもの席にちょこんと座りいつものごとく読書を始めた。
コンピ研とのゲーム対決でも解析するとか言ってゲームを持ち帰ったけど、ナイフは解析する事なんて無さそうだが、いったい何の思惑があってやら。
しかしあのカバン、今ある公的機関に見られたら銃刀法なんとかという法律に引っかかるよな。
ハルヒといえば今日も今日とてPCの前で必要な備品を思いつくまま古泉に言っている。
おいおいおい、幾らなんでもエベレストやマリアナ海溝へ行くわけじゃないんだ、どう考えても潜水艇とかシェルパなんていらねぇだろう。どこで手配するんだ。
古泉、お前いい加減にしておかないと機関の備品全部もってくることになるぞ。
よく見たらニヤケ顔もそろそろ引きつってきたように見えるな。助け舟がいるか?
「ハルヒ、一応言っておくが、俺たちが行くのは日本の片田舎だぞ。酸素ボンベや犬ぞりをどうやって使うつもりだ?」
「わかってるわ、冗談よ。意気込みってやつね!」
「その意気込みにお応えできるように善処します。では、持って行くものはこれくらいですね」
古泉が半ば強引に話を打ち切った。
「荷物がそれなりの量になると思われますので皆さんはご自身の着替えだけ持ってきてください。集合場所に僕が備品を持ってきますから」
282 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/08(日) 21:27:47.51 ID:XoPEip.o
自分で厄介ごとを抱え込んだ愚か者がいるな。
俺が半分呆れた心境で古泉の発言を聞いていると
「どうぞ」人生の苦労が報われるような笑顔が声をかけてくれる。
ことん。
目の前に湯気の上がる湯のみがメイドさんによっておかれた。
「この前キョン君に買ってもらった茶葉ですよ。うまく煎れられたかな?」
朝比奈さんが半分心配、半分期待で俺の反応を待っている。
「いや茶葉の良し悪しは分かりませんが、朝比奈さんが煎れてくれたのでおいしいです」
「キョンそれすごく馬鹿な答えよ」ハルヒにばっさり切られた。
朝比奈さんは俺のまぬけな返事に気も悪くせず、くすくす笑って他の部員のお茶も煎れ始めた。
そういえばハルヒと朝比奈さんと長門に新しい下着を買ってやったんだったな。
俺の視線が自然とそれぞれのふくらみに移動した。ハルヒ、朝比奈さん、長門…と移動したところで長門が俺の視線に気がついた。
長門がハードカバーを胸元にあてた。
「見せない」
いえ、そんなつもりは…。
306 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/14(土) 00:41:27.30 ID:0am1EOMo
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3連休の第1日目。
古泉が着替えだけもってこいと言ってくれたおかげで朝早くに軽装で家を出ることができた。
大荷物になればなるほど妹が見つける確率も高くなるのでこれには古泉に感謝しなければならないだろう。
何よりナイフを使わなければいけなくなる様な状況に妹を巻き込みたくない。
って考え過ぎか?長門はただ便利だから必要だと言っただけかもしれないし。できればその方がありがたいんだが。
そんな事を考えながら俺は荷物をママチャリの前かごに突っ込んだ。男の2,3日の着替えなんてこの程度の大きさだ。
駅前に着くと、まぁ当たり前なんだが既に全員そろってた。当たり前なんて思う時点で既にあきらめの境地だよな。
「おそい!おそい!おそい!おそーい!!!」
時計を見てみると予定集合時刻の15分前…いつもの事か。
何だか待たせて悪いという気持ちも徐々に薄れてくるぞ、それでも一応謝罪の意を示すのが大人の対応ってもんだ。
「待たせたな」
「ええ!そりゃもう待ったわよ!いつも言ってるけど団長より遅く来るあんたの頭が信じられないわ!」
日頃から俺はお前の頭の中身が信じられんよ。
「ぐずぐずしてたら先を越されるかもしれないわ!キョンのバツゲームは行きの電車で考えるから覚悟しておきなさい!」
ハルヒの空恐ろしい宣言とともに俺たちは改札へと向かった。
うおぃ、古泉、大荷物だぞ。
「はい、何しろ5人分でしたので」
各人のザックはともかく俺と古泉だけ明らかに余計な荷物がある。
ぐぬぬぬ…!重い!一体何を持ってきやがったんだ。
307 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/14(土) 00:41:54.47 ID:0am1EOMo
電子レンジとか炊飯ジャーを持って来たんじゃあるまいな?
「さすがにそれは無いですが、金属探知機と超音波探査装置があります」
お前はアホか。
「そちらの荷物にはガイガーカウンターと磁場測定装置が入ってます」
この荷物捨てていいか?
ガイガーカウンターなんていったいいつ使うんだよ。殺人拳法が闊歩している世紀末にいくんじゃねぇんだぞ。
磁場測定装置に至っては使った所で何が分かるかもわからん。
こんな訳の分からん荷物に加えてシャベルやつるはしなど、用途の分かる荷物もあるのだから俺と古泉の担ぐ総重量は自分の体重と同じ位なんじゃないだろう か?
もはやこの時点で罰ゲームだぜ。
とにかくそれぞれのザックを背負ってホームに降り立つ。
乗車予定時刻は約5時間。長い旅になりそうだ。
しばらくはキャンプに出かける高校生と言った風情で俺たちはボックス席を二つ占領してトランプをしたりお菓子を食べたりして過ごした。
きゃいきゃいとはしゃぐ同年代の異性を眺めるのはなかなか心休まる光景だな。
一人だけはしゃいでいない異性もいるがそれなりに楽しんでいると俺は思うね。
それも含めて目に優しい光景だ。
何回か電車を乗り換え、再び席に着いた時ハルヒが言った。
「さ!キョン罰ゲームよ!」
このやろう覚えてやがったのか。胃が縮み上がる。
「当たり前じゃない!あんたの脳みそに遅刻する事は悪い事なんだって刻み込んであげるから覚悟しなさい!」
ハルヒはそういって自分のポケットからリップクリームを取り出した。
308 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/14(土) 00:42:06.41 ID:0am1EOMo
「何をするつもりだ」さすがに警戒する。
「動くんじゃないわよ」ハルヒがにやにやしながら俺の唇にリップクリームを塗った。朝比奈さんが息を飲む。
ぬお、たっぷり、べたべただ。
「さぁ!最後尾の車両まで行って車掌の部屋のガラスに唇の跡を着けて来なさい!」
だぁー!車掌がいたらどうすんだ?!
「いた方がいいのよ!罰ゲームだから!」
こいつは鬼だ。悪魔だ。
「ちゃんと後でみんなで確認しに行くからね!」びしっ!と人差し指を俺の鼻先に突きつけた。
ぎー!仕方が無く俺は最後尾目指して歩き出した。ローカル線だから数両で最後尾車両だ。
なんだかもう家に帰りてぇ。
不幸中の幸い、車掌はいない。が、当たり前だが他の乗客はいる。
うわー視線が気になる。気になる。気になるー!!!
てーい!
ぶちゅり…
早々に立ち去る!一刻も早くこの電車から降りたい!
俺たちの席に逃げ帰ってくるとハルヒが言った。
「さぁみんな!確認しに行くわよ!キョンは荷物番!」
もう好きにしろ。
しばらくして全員が帰ってきてハルヒに散々からかわれた。
その頃には俺は悟りの境地、何を言われたって動じないぜ。
朝比奈さんが頬を染めながら言った。
「キョン君、涼宮さんと間接キスしちゃいましたね」
ああああ朝比奈さん!!!!!
「こ、こ、このエロキョンー!!!」
ばきっ!
なぜ俺がー!!
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314 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/15(日) 03:16:26.26 ID:.xgNPiIo
ようやく悪夢に満ちた電車経路が終わり、さらにバスに乗り込む。
もちろん沈んだ黒周村までのバスなんてものは出ているわけも無く、俺たちはダム近くの停留所でおりた。
うー、ケツが痛くなった。
こんな辺鄙な所にバスが通っていること自体が驚きだが、どうやらダムへのバス路線というわけではなく、この近くに登山道があるらしい。
俺たちの乗ったバスに乗り合わせた人達は全員登山服にリュックを背負い杖などを持ち合わせていた。
平日に毎日否応無く山登りをしている俺にとっては休日にまでなんで登山をせにゃならんのだ、と思ったが、ダムの底に降りるのもにたようなもんか。
さすがに長時間移動しただけあって当たり前だが風景も空気もがらりとちがう。うーん、風光明媚だ。
俺たちは登山道へ向かう一行とは外れダム湖の周辺を廻っている道路からダムの内側を眺めてみた。
道から下はほとんど垂直に切り立っておりほぼ崖といって構わない様相だ。
目線をかなり遠くへ移すとなるほどかなりでかい中州の中に何軒か家屋が立っているのが分かる。あのあたりが黒周村だったんだろう。
当たり前だが水があった道路から下は植物は生えておらず藻と堆積した泥の世界だ。
目に映る風景の上半分は緑が生い茂っているのでなおの事、道から下の白黒の世界が不気味に映る。
「こ、こんなところに降りるんですか?」
朝比奈さんは早速泣きが入っている。俺も口には出さないが朝比奈さんに全面賛成だね。
「降りる道を見つけないといけないわね、無かったら飛び降りましょ」朝比奈さん顔面蒼白。お前一人でバンジーしろ。
「ダムに沈む前は集落への道があったはずです。地元の人に聞けば何かわかるかもしれませんね」古泉がもっともなことを言う。
仕方なくいったん俺たちはダムの売店に出向き店員にダムの底に降りる道はないか聞いてみた。
店員が言うには自分は知らないが昔からこの辺の山々を管理している杉田さんという人物がおりその人なら詳しいのではないかとのこと。
杉田さんは日中はほぼ枝打ちをしたり登山道の整備などをして山の中を歩き回っている。
あそこに見える小屋が、と言って店員はカウンターから出てきて沈んだ集落近くの山を指した、杉田さんの小屋だそうだ。
315 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/15(日) 03:16:47.98 ID:.xgNPiIo
言われてみれば自然の中に明らかに人工物のトタン屋根?の青い色が見える気がする。
俺たちは店員に礼を言いまずは道路伝いに集落の近くまで歩くことにした。
…疲れるぜ。
段々と黒周村に近づくにつれて全員杉田さんの小屋よりも目下に広がった風景の中にある一軒に目を奪われた。
ぽつりぽつりと日本家屋がある中に黒い洋館があるのだ。間違いなくあの建物が目指す某氏の館だろう。
かなり大きな中州のほぼ中央、なだらかな丘陵の頂上あたりに黒々とした姿を浮かび上がらせている。
周りは水が引いて泥が乾き白くなっているので余計にその黒が目立つ。
白紙に濃い墨汁をぼとりと垂らしたような印象を受ける。他の風景が死んでいるのにあの館だけ妙に生気を感じる。生々しい。
絶対に変だぞ、あれ。こんなことは言いたくないが常識はずれな経験をしてきただけに簡単に非常識な考えが頭に浮かぶ。
あの館、生きてないか?
ハルヒは館が目下に近づくにつれはしゃいで先頭をつっぱしり朝比奈さんが慌ててついて行っている。
長門はザップの重さを感じていないかのような軽い足取りでいつものごとく歩いている。
最後尾の俺は背中にかかる重さを前の古泉と共感しながら思ったことを聞いてみた。
「僕もそんな印象を受けますね。まるで我々を待っているかのようです」
俺より不気味なことを言いやがった。聞くんじゃなかったぜ。
「さぁ!まだ日は高いしあの館に突撃するわよ!」
この崖を荷物を持ちながら無傷で降りるのは不可能だぞ、それに降りる道を聞くために杉田さんとやらに聞きに来たんじゃないのか?
「そういや、そうだったわね」この女は…。
そう言って山腹にある小屋を見上げた。距離自体は大したことはなさそうだが、この荷物を担いであそこまで登ると考えると途端に距離感が増大する。
俺たちは杉田さんの小屋に続くであろう山道を登り始め、人目につかないところに荷物をまとめて置いた。
316 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/15(日) 03:17:19.13 ID:.xgNPiIo
うわー体が軽い!
ん?長門がザックを開けている。そしてがさっとナイフを取り出した。
「装備して」
感情の無い瞳で5本のナイフをぶら下げた。
「うん!いよいよって感じね!」ハルヒは益々テンションがあがったらしく大喜びで腿にナイフを装備する。
まったくだ、いよいよって感じだぜ。俺は何に対してかは知らないが少なからず覚悟を決めながらナイフを身につけた。
「さぁ!杉田さんからルートを聞き出して今夜はあの館でお宝発見パーティーよ!」
途中経過が抜けてないか?
荷物を置いて身軽になったハルヒはカモシカのごとくぴょんぴょんと山道を登っていく。
「遅いわよ!」振り向いて眉毛を吊り上げて怒鳴るので俺たちも自然と山道を駆け上る。勘弁してくれ。しまった荷物番すればよかった。
ハルヒがせかすおかげで、いやせいで、杉田さんの小屋の前にはものの数十分で着いてしまった。
長門以外の全員の呼吸が荒い。しかしあっという間に呼吸を整えた団長殿が小屋のドアをたたいた。
「こんにちは、杉田さんいらっしゃいますか?」
「何か用か?」
うわっ!後ろから声がかかり俺は驚いて振り向いた。
年のころなら60歳くらいだろうか、白髪を短く刈上げ腰からのこぎりやら山仕事の道具をぶら下げた老人が柔和な目をして立っていた。
日焼けしてシャツから見える筋肉は引き締まっており太い。すげぇ。
「初めまして、私たち高校の歴史探索の研究で黒周村を題材にしたんです。けど下に降りる道が見つからなくて」
いつも思うがハルヒって優等生の振りをするのがうまいよな。もっとも悪用じみた使い方しか見たこと無いが。
「このあたりの山林を管理されている杉田さんならご存知じゃないかってダムの売店の店員さんに伺ったのでお邪魔したんです」
317 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/15(日) 03:17:40.86 ID:.xgNPiIo
「管理なんてお上品なことはしていねぇ、ただのマタギだ」
そういって杉田さんは照れくさそうに笑った。
「お前ら、あの館に行くのか?」ストレートに聞いてきた。
「はい」にこやかにハルヒが応える。
「気をつけろ〜あそこは昔、鬼が住んでた屋敷だぞ〜」ノリがいいなこの爺さん。
朝比奈さんがびっくりしたのを見て杉田さんはまた笑った。
「いやいや冗談だ」
「杉田さんはあの事件をご経験されたんですか?」古泉がこれまた優等生面で聞く。
「俺がガキ時分の話だ、詳しくはしらねぇが鬼らしきものがいたのは本当みてぇだな。親父にその事を聞いたらこっぴどく殴られたよ」
杉田さんは全員の反応を見ながら続けた。
「山に一人で入っているとな、どうしても説明のつかねぇ事やら物をよく見たり経験したりするんだ」
不思議話というか自分の経験を淡々と語るだけに妙に説得力がある。
「そういうモノが人里に下りてきたとしても当時としては不思議じゃねぇ」
そう言って杉田さんはにかっと笑った。
「おい、若けぇの、鬼切刃ってのを聞いたことがあるか?」
のこぎりを取り出しながら俺と古泉に聞いてきた。二人とも首を横にふる。
「地方によっては鬼殺しって呼ぶところもあるらしいが、この刃だ」
杉田さんがのこぎりの一番手もとに近い刃を指差した。
他の刃が三角にとがっているのに一番下のその刃は幅が広く明らかに他の刃とは違っている。
「この刃を鬼切刃というんだ。俺たちマタギはこの刃が折れたときには山には絶対に入らないんだ。折れたことも口にしねぇ。鬼に聞こえるといけねえからな」
318 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/15(日) 03:17:56.80 ID:.xgNPiIo
そういってのこぎりを腰にしまう。何度も繰り返している動作なのだろう、道具というより…武器に見えるぜ、爺さん。
「ま、縁起担ぎといえばそれまでだが、この鬼切刃がついていない刃物は本当に山では役にたたねぇ。この刃を使って切るわけじゃねえのに不思議なもんだ」
そこで杉田さんは俺たちが全員同じナイフを装備しているのに気がついた。
「おい、そのナイフを見せてみろ」
古泉がナイフを杉田さんに渡す。手にした途端に杉田さんの目が険しくなった。
「こりゃ驚いたな…全員同じものを持ってんのか?」
俺も驚いた、教室で見たときのナイフとは明らかに質感が違う。
なんというか神々しい、まで言うと言い過ぎかも知れないが教室のナイフと今のナイフを比べたら素人の俺でも差が歴然と分かる。
長門は持ち帰っていったい何をしたんだ?
「ここにいる間はそのナイフいや刀は絶対に肌身離さないようにしておけ。どうせ館の近辺で寝るんだろうが寝るときも離すなよ」
なんだか嫌な予言をされてしまった気がする。
古泉にナイフを返しながら杉田さんはようやく降りる道について教えてくれた。
「お前たちダム湖の道路を歩いてきたんだろう。その道をそのままずっと進め。山側から沢がでているからそこら辺りのガードレールから下を覗けば石段が見つかるはずだ」
俺たちは杉田さんにお礼を言って今来た道を降りようとした。
「おい、あんた名前はなんて言うんだ」
このエロじじい、朝比奈さんの色香に迷ったか、と思いきや、杉田さんが聞いたのは長門に対してだった。
「長門有希」
長門が無愛想ではなく、無表情ですんなりと名前を杉田さんに届けた。
「そうか…あんたはユキというのか…」
今度は何を思ったか俺と古泉に向きなおる。
「鬼は生娘を狙う」
杉田さんの顔は笑っているが目が笑っていない。何かを届けようとしている目だ。
「女を守るのは男の仕事だ。肝に銘じとけよ」
俺は何となく気おされてこくこくとうなずいた。
「心得て置きます」古泉がいつに無くスマイルを消して杉田さんに返事をした。
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338 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/18(水) 01:18:35.55 ID:6qynQBUo
再び荷物を担ぎ上げ俺たちは道路を歩き始めた。
沢、沢、沢っと…。
山を見上げながら歩くがいっこうに水の流れなんて見当たらない。
もしかしてここ数日の晴天で枯れたんじゃなかろうなと思い始めた頃、カーブの奥まった箇所に小さな水の流れがちょろちょろと音を立てていた。
水は道路の下に作られた水路をくぐりダム湖へ流れこんでいる。
ハルヒは沢を見つけた喜びで荷物を放り出し、ガードレールから身を乗り出し石段を探し出した。あぶねぇ落ちるぞお前。
「よっと」片足を高く上げて覗きこんでいる。
見てられないな。朝比奈さんもあわあわしている。
あまりに危なっかしいので上げている片足をつかんで引っ張った。
「こら!キョン!下が見えないでしょう!」馬鹿、放したらどうなるか結果を考えろ。
落ちる寸前の格好で何ヶ所か場所を変えながら下を覗き込んでいたハルヒが叫んだ。
「あったわよ!」
ハルヒがあまりに身を乗り出すのでつかみ所が無く俺はハルヒの足を脇に挟んでガードレールに足をのせ引っ張っていた。
目の前にハルヒのよく動くお尻が…。
「息が合ってますね」古泉がにこやかに言う。
うるせー、見てないで手伝え。
「おや、私が涼宮さんの足を掴んでもよろしかったのですか?」
「・・・」思わず言葉に詰まった。
なんだその冗談ですよと言わんばかりのしたり顔は。
俺に引っ張られハルヒがこちら側に戻って来た。そして早速ガードレールをまたぐ。
339 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/18(水) 01:18:58.12 ID:6qynQBUo
「よっ」気軽な掛け声と共にハルヒが石段に飛び降りた。
「キョン、荷物降ろして!」団長殿が足元から命令を出している。
俺はガードレールから身を乗り出しハルヒの荷物をぶら下げて声を掛けた。
「放すぞ」「いいわよ」どざっ。
「僕が下で荷物を受け取りましょう」古泉はそう言って荷物を降ろし飛び降りた。
俺は朝比奈さん、長門、そして古泉自身の荷物と俺の荷物を下の古泉に渡した。
長門がふわりと降り立ったのに比べて朝比奈さんは及び腰になってしまいなかなか飛び降れない。
「大丈夫ですよ。支えますから」
古泉が下から声を掛けている。
「みくるちゃん気合で降りちゃいなさい!」
ハルヒが下からハッパを掛けている。
「えぃっ!」可愛らしい気合と共に朝比奈さんは空中に身を投げ出した。
着地してよろけたのを古泉が支える。
「あ、ありがとうございます」朝比奈さんが古泉の腕をぎゅっと握りながらお礼を言った。
しまった、俺が下にいればよかった。
「支えますからどうぞ」
うるさい、どいていろ。
俺も石段の上に飛び降りた。
下から道路を見上げると草が目隠しの代わりになっておりハルヒのように身を乗り出して覗き込まない限りこの石段は見つからないだろう。
俺は自分が立っている石段を見てみた。作られてから、そして人の手が入らなくなってから相当年月が経ってるのが分かる。
340 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/18(水) 01:19:22.20 ID:6qynQBUo
積まれている石と石の間からは草が生えており場所によっては木の根が石段を下から持ち上げている。
石段を下るにつれて段々と足音が湿っぽくなる。
ひかっかっている流木をまたぎ、崩れている箇所を飛び越えたりしてなかなかアスレチックな気分を味わいながらダムの底についた。
「うーん」ハルヒが手を顎に当ててうなっている。
それもそのはず石段から先は泥沼なのだ。
はっきり言って底なしだと言われたら信用する。いや、底なしじゃないと言われても信用できない。
とてもじゃないが飛び越えられる様な幅じゃないな。軽く20mはあるだろう。
日照りが続いても乾かなそうなこの泥の流れをどうやって渡るか…。そうだ、京都へ行こう!
「キョンそこの流木取って」やる気になっている女がいるな。
水草が垂れ下がったまま乾いているひん曲がった流木を皆の頭上越しに渡してやる。
「よいしょっ」ハルヒが流木をなるべく遠くに突き立てる。
ずぶ、ずぶ、ずぶ、ずぶぶぶぶ…。3メートル以上はあったであろう流木があっさりと飲み込まれてゆく。
「わっ、わっ、わっ!」
遠くに刺しすぎて体重が前にかかり戻れない状態になりやがった!
「きゃぁ!涼宮さん!」朝比奈さんと長門がハルヒを掴んで引っ張る。
俺と古泉も朝比奈さんと長門の脇からハルヒを掴んで引っ張った。
勢いあまって全員でハルヒを抱え込むようにしながら石段に尻餅をつく。いてて。
「なかなかやるわね!」ますます燃えているヤツが一人いるぞ。
「古泉君!ボートを出して!」未来から来たロボットじゃねぇんだ、そんな都合良く「わかりました」あるの?!
というか、だったら最初から出せよな。
341 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/18(水) 01:19:41.76 ID:6qynQBUo
古泉が荷物の中からゴムボートを出してポンプで空気を入れ始める。
「これで勝ったも同然ね!」いつも思うがこいつは何と勝負しているんだろう。
古泉が膨らましたボートは3人乗りで、まずはハルヒと朝比奈さんと古泉が向こう岸へ渡った。
向こう岸はなだらかな斜面になっており労せず降り立つ事が出来るみたいだ。石と泥だけだが乾いているので足場はしっかりしていそうだな。
朝比奈さんが安心したようにこっちに向かってにこやかに手を振っている。
ハルヒはもうこちらには背中を向けて館の方を見ている。その背中にテンション上がりまくりのオーラを背負っているのがイヤになるくらい分かるぜ。
古泉がボートに乗りこちらに向かってきた。
ん?珍しく神妙な顔つきをしてやがる。いやな予感がして隣りの長門を見てみた。
「・・・」
いつもの無言だが、どことなく体調悪そう?なのか?とにかく通常状態の長門ではないとは言い切れる。
「どうした?」
ボートに乗り込んで長門と古泉両方に聞いてみる。
「あの建物に近づくにつれて情報統合思念体との接続が断続的になる」
「なに?!」
「涼宮さんが作り出す閉鎖空間ではありませんが、それに近いものを感じます。結界とでもいうのでしょうか。とにかく通常空間とは違う違和感を僕も感じます」
俺はなだらかな丘陵を仰ぎ見る。視線の先にそびえ立つ妙な存在感をまとった館。
ハルヒは我慢が出来なくなったらしく朝比奈さんを置いてきぼりにして一人で館に向かって突進しているところだ。
「これはハルヒがやったことなのか?」朝比奈さんのそばに着いて、ボートから降り聞いてみる。
「違います」古泉が即答する。
「60年程前にここに宇宙から自己増殖型の生命体が落ちて来た形跡を確認」長門がガラスの瞳を揺らしながら述べる。
342 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/18(水) 01:20:03.86 ID:6qynQBUo
「なに?宇宙人が落ちて来たのか?」
「ヒューマンタイプではない。現在の地球で言う所のウィルスに近い。墜落時の損傷を補う為に人間を宿主として自己増殖を試みたものと思われる」
「ということは宿主にされたのは館の主なんですね?」
長門が僅かにうなずく。
「単一の宿主の遺伝子で自己増殖を試みたものの自身の情報の欠損が激しかった為に他の宿主の遺伝子も使って増殖しようとしたのがあの事件」
「つまり館の主はウィルスに体を乗っ取られていたわけですか。しかし最初の宿主は死なずに後で噛まれた人達はなぜ死んだんですか?」
「本来であれば区別されるはずの宿主の本能とウィルスの自己増殖作業が複合してしまいその結果、エラーコピーを他の宿主に注入した」
「なるほど、それでエラーコピーのウィルスを注入された人達は死亡してしまったわけですね」
「おい、そういえば館の主は見つかってなかったな。まさかまだあそこにいるんじゃないだろうな?」俺は館を指差し長門に確認する。
「…」
「どうした?」
「確認する前に情報統合思念体との接続が切れた。しかし最初の宿主の存在消滅は確認できなかった」
「つまり今も生きている可能性もあるわけですか」古泉が言う。
「そういや接続が切れると具体的にどうなるんだ?」俺は恐る恐る聞いてみた。
困った時の長門様がお一人で行動したらいかな具合になるんでございましょう?
「情報操作が不能になる」
「つまり…」俺の言葉を古泉が繋いだ。
「普通の女の子になる、と」
長門が伏し目がちにうなずいた。
いつも冷静でいる長門がしおらしくなると何だか守ってやらなきゃという気が起こるな。
343 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/18(水) 01:20:19.05 ID:6qynQBUo
「荷物もってやろうか?」
「平気」
「何してんの!早く来なさーい!」既に今いる場所と館の距離を半分程制覇したハルヒが怒鳴っている。
俺たちは自分の荷物を担ぎ上げ団長の後に続いた。
「やはりあの館に近づくにつれて空間の違和感が増します」
古泉が汗を浮かべているがこれは暑さだけじゃない気がするぞ。
「すみませんがボートの方に向かって戻って頂けませんか?」
なに?なんでそんな面倒くさい事をさせるんだ。忘れ物なら自分で取ってこい。
古泉、朝比奈さん、長門が俺を見る。
ぐぬぬ。
「10歩程でかまいません。館から遠ざかる方向に歩いて下さい」
俺は館に背を向け歩き出した。
…8、9、10っと。
「歩いたぞ」そう言って俺は振り返った。なに?!
歩き出したときと変わらない距離に3人が立っていた。
朝比奈さんがびっくりしている。という事は俺を驚かそうとして3人そろって10歩後をつけて来たわけではないんだな。
「館に近づく事はできても遠ざかる事は出来ない様ですね」
俺は引っ張られた感じも戻された感覚もなかったぞ?
「はい、僕たちから見ても10歩あるいたように見えましたが距離が伸びませんでした。見てて下さい」
そう言って古泉はボート向かって歩き始めた。
古泉は確かに歩いている。進んでいる。右足の次には左足が出ている。地面をちゃんと踏んでいるのにもかかわらず距離が歪んでいる。
地面が動いているというわけではないのに古泉の移動する距離だけが縮んでいる。距離そのものだけがおかしい!
「おい、どういうことた?!」
「館の主が生きているという証拠ですかね」
歩くのを止めて古泉が館を見上げた。
「行くしか無さそうですね。このままでは戻ろうとしても歩き続けたあげく一歩も進めず餓死するでしょう。今の僕たちにとってあのボートは遥か彼方にあるんです」
俺は長門が授けてくれたナイフの存在を確かめてから館に向かって歩き出した。
涼宮ハルヒの純潔 その2 へ続く
一応、URL貼っておきますねwwwwwwwww
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