2008年06月25日

涼宮ハルヒの純潔 その2

涼宮ハルヒの純潔 その1


352 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/20() 01:01:19.00 ID:1ntH1WMo



太陽が傾き出した。
今まで味も素っ気もなかった灰色の地面が夕日に染められオレンジ色に燃え上がる。
なだらかな丘陵の上を歩いているせいで飛び出している石の影も俺たちの影も全てが長く伸びる。
皆の一番最後尾で館を目指していた俺は特に注視するでもなく横に伸びた自分達の影を見ていた。
俺、古泉、長門、朝比奈さん、そして
そして!?
「古泉!影が多いぞ!」
全員が止まる。しかし一つの影だけいびつな形のまま館に近づいてゆく。
俺たちが見ている前でその影は突然地面を這うように伸びるとそのまま館に吸い込まれるように消えた。
「い、い、い、今のなんですか?」朝比奈さんがその場に崩れ落ちそうになっている。
だが、俺たちの誰も今の現象に対して答えは持っていない。
「影の様に見えましたが太陽の方向とは無関係に伸びましたね。影だとしても僕たちの常識の範疇内の影とは全く違いました」
館の方を見るとハルヒは裏に回っているのか姿が見えない。今の影を見られずによかった。
「長門、今のが何かわかるか?」
長門が申し訳無さそうに首を横に振った。何だか悪い事をした気がする。
「そ、そうか、すまなかったな」謝る必要がある質問とも思えないがつい謝ってしまう。
「先ほど一瞬ではあるが情報統合思念体と接続できた」
長門の言葉を待つ。
「ウィルスを体内に宿した宿主がまだ自立存続をしていたならば」
いてほしくねぇな。



353 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/20() 01:01:39.82 ID:1ntH1WMo



「そのウィルス抹消の許可が出た」
許可ってどういう意味だ?
「こちらの生命活動をウィルスによって停止させられる可能性が大きい」
「俺たちが殺される可能性が高い?」
長門がうなずく。
「ウィルスはどうやったら抹消できますか?」古泉が聞く。
「宿主の自立活動を回復不能なまでに損傷させれば宿主と共に消滅する」
「つまり宿主を殺せ」自分で言ってその言葉の意味にぞっとする。
殺さないとこちらが殺されるというのは分かるが倫理的にどうしても腰が引ける、元は人間だろ?
「ダムの底で60年以上も生きている時点で人とは言いがたいですがね」
古泉がいつものスマイルで言う。お前には躊躇やためらいといった麗しい人間の心の襞といったものが無いのか?
ん?ダムの底で60年以上も生きている
「そんなヤツの息の根をどうやって止められるんだ?」
「心臓に刺して」長門がそう言ってナイフを引き抜いた。
夕日に照らされてナイフの刃が赤く照り輝いた。
「ある周波数を放つナノマシンの集合体」
やれやれ、長門はこうなる事を予測して準備をしていたわけか。
はぁ物騒な合宿になったな。
まさか化け物退治する事になるとは思わなかったぜ。
「早く来なさーい!」



354 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/20() 01:02:01.30 ID:1ntH1WMo



館の周りを一周回ったらしいハルヒが呼んでいる。
自分からあり地獄の底に向かう昆虫もいるまい、普通はもがくもんだとか思いながら俺は館に向かう。
近づくにつれ館の詳細が分かってくる、それにともない緊張も高まる。
60年以上水の中に存在したにもかかわらず腐敗の跡を見せず黒光りする壁と支柱。それに割れていない窓ガラス。
建築様式に俺は明るくないがゴシック調とでもいうのだろうか、そこかしこに施された装飾が余計に不気味さを増す。
そこに赤い夕日が差し込むのだから黒と赤に色づいてさらに不気味だ。
ハルヒは玄関の両開きの扉の前に腕を組んで仁王立ちしている。
「遅いわよ!もう館の周りを一周しちゃったわ!入る時の感激を皆で一緒に味わおうと思って待ってあげたんだから感謝しなさい!」
そう言って両開きの扉に手をかけた。
「開けるわよ」そう言って振り向いた笑顔が猛烈に楽しそう。
ハルヒが力一杯扉を引っ張る。

……………ギギギギギギ!

生理的に非常に耳障りな音を立てて扉が開いた。
「じゃーん!」ハルヒは喜んでいるが俺は地獄の扉を開けちまった気がするぞ。
何のためらいも無くハルヒが館に踏み込む。
その後ろに全員続いた。
そんなに大きな屋敷ではない。
構造としては二階建てだ。



355 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/20() 01:02:19.24 ID:1ntH1WMo



玄関ホールは2階まで吹き抜けで正面に大きな階段がある。
階段はそのまま2階の回廊に繋がっており2階には左右対称に部屋があるのが今いるホールから見える。
2階には右に3つ、左に3つの扉が見える。
1階は左に2つ。右に1つ扉がある。
しかし、なぜだ?
ダムの底に沈んでいたのにどこにも汚れが殆ど目立たない。
階段を上りきった正面にはステンドグラスというか装飾されたガラスが殆ど壁一面を埋めているのに一枚も割れておらずむしろ輝いている。
「ふわぁ、綺麗ですねぇ」朝比奈さんが感嘆の溜息を漏らす。
「ここは食堂!」ハルヒが1階の右の扉を開けた。
「ここは厨房!」1階の左の扉。
「ここは談話室!」そのとなり。
だだだだだ!階段を駆け上がりためらう事無く右へ曲がり2階の扉を開けてまわる。
「部屋!」「部屋!」「部屋!」
戻って左の廊下へ走る。
「部屋!」「部屋!」「部屋!」あっという間に全ての部屋を回りやがったぞ。
ハルヒが憮然とした顔で階段の最上部、ステンドクラスを背に腰に手をあてて怒鳴った。
「秘密の財宝室はどこ?!」
「秘密ゆえに隠されているとは思わんのか?」
「むっ、キョン生意気よ!」
「どうでしょう。ライバルは見当たらないようなので一旦食事をしてから秘密の部屋を探すというのは?」



356 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/20() 01:02:33.45 ID:1ntH1WMo



古泉が提案する。
「そうね、腹が減ってはなんにもできないって言うもんね!」
わざと間違えているのか本気で言っているのか分からん。まぁ意味的には間違ってないんだが。
俺たちは一旦屋敷の外に出た。
屋敷の周りに落ちていた流木を引っ張って来て折り薪のかわりにする。
古泉が手慣れた感じで石を組み固形燃料を使って火をおこした。
太陽はもう地平線の向こうへ沈んだらしく西の空がわずかに明るいだけだ。
燃えている火を見ているとなんだか安心するな。飽きずに眺められるぞ。
古泉が飯盒に米を入れ火に掛ける。
空が真っ暗になり、世界が昼から夜になった。

バァン!

開け放した玄関の扉の奥から何かが勢いよく叩き開けられたような音がした。



 



373 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:37:23.95 ID:Vcp7aD2o



「何?!今の音!」言うと同時にハルヒが玄関に飛び込んでゆく。
「ハルヒ待て!」慌てて立ち上がり追いかけた。
館の中は暗く外のかまどの明かりが玄関付近に少々入ってきているが奥は完全な暗闇だ。
真っ暗闇ではさすがにいかんともしがたいらしくハルヒはホールで立ち止まっていた。
遅れて長門、朝比奈さんがやってくる。
古泉がライトを人数分もって最後に入ってきた。
「持ってください」全員に配る。
「今の音どこから聞こえたのかしら?」ハルヒが明かりを上下左右にふりまわし全ての扉を照らす。
夕方にハルヒが全ての扉を開け放していたが、明かりの中に浮かび上がる扉は全てそのときのままだ。
「おかしいわね?」ハルヒが全く物怖じせずすたすたと奥に進んでゆく。
俺も慌ててハルヒの進行方向にライトを照らしながら後に続いた。
歩きながら照らすのでライトが揺れる。
突然明かりの中に現れるゴシック調が恐怖心をかきたてる。まぁ人物像やガーゴイルのように彫像がないだけ救いだな。
1階をハルヒと俺で見て回る。異常なし。
階段を登る。
「キョンは左ね」ハルヒはそう言ってためらい無く2階の右の扉を見て回る。
俺も左の扉の中をライトで照らして確認する。
室内は何も置いてないので確認するのに10秒もかからない。
幸いなことに異常は無かった。
「うーん、気になるわね」結局どこからした音だったのか分からずじまいで俺たちは外に出た。



374 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:37:49.30 ID:Vcp7aD2o




火が消えていた。

まっすぐ立ち上がっている煙が、まるで消えたのではなく消されたんですよと主張しているようだ。
古泉にささやいてみた。「こんな時間で消える程度の火だったか?」
黙って首を横に振りやがった。
間違いない。俺たちのほかに誰かいやがる。
いや、誰かじゃねぇ、60年前に宇宙からやってきた化け物が俺たちの周りにいるんだ。
古泉が黙ってもう一度火をおこした。
ここで騒ぎ立ててハルヒに勘ぐられたら更におかしな事になりそうだし。
よしっ!気を取り直してメシの準備でもしますかね。
朝比奈さんと長門が大き目の岩の上にまな板をのせ野菜を切り始める。
それを俺がハムやソーセージと一緒に串に刺す。
その串をハルヒが受け取って火の上に渡した。一番楽な仕事だな。
「何言ってるの?火の加減をみて焼き具合を確かめるのは難しいのよ。あんたやる?そのかわり焦がしたら罰金だからね!」
バーベキューのこげ位で罰金はないだろ。キャンプでの料理の失敗はご愛嬌だろうが。
気味の悪い館の中で気味の悪いことが起こった後だが、そんなこと全く気にせずハイテンションではしゃぎ続けるヤツがいるので雰囲気は暗くならない。
ハルヒの元気がありがたいと思ったのは初めてなんじゃないだろうか?
朝比奈さんも自然に笑い顔が出ているみたいだ。
しばしの間、俺たちは財宝目当てではなくキャンプに来た高校生となって更けてゆく夜を楽しんだ。



375 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:38:10.59 ID:Vcp7aD2o



「さて!秘密の部屋を探すわよ!」
腹ごなしの時間を取った後、ハルヒが言いだした。くそー、近くに危ない宇宙人が徘徊しているって言ってやろうか。
「古泉君道具を出して!」「わかりました」
返事をした古泉が荷物からなにやら機械を取り出した。
「超音波探査装置です」
で?それを使うといったい何が分かるんだ?
「魚群探知機と同じです。あれは魚の群れを探しますが、これは地下の空洞を探すんです。今回の場合は地下室ですけどね」
古泉がスイッチを入れるとサーモグラフィのような画面が浮かび上がる。見てもさっぱりわからん。
俺たちは再び館に入って来た。
装置を持ち上げ画面を見ながら古泉がホールをあちこち移動する。「どう?見つかった?!」ハルヒがせかす。
「この下に空洞がありますね、それなりの大きさがあります」
そう古泉が言ったのが階段の裏側に回った時だった。
このやろう、馬鹿正直にみつけるんじゃねぇ。
「でかしたわ!」古泉の周りをちょろちょろしていたハルヒが大喜びで床を調べ始める。
しかし何より暗闇の中だから空洞があるのが分かったとしても、その入り口なんてなかなかみつからない。
「キョンちゃんと探しなさいよ!」そんな事言われても出来れば見つけたくないからなぁ。

バァン!

いきなり床の一部が跳ね上がった。床の模様に巧妙に隠されていた入り口が開いたのだ。



376 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:38:27.50 ID:Vcp7aD2o



しかもこの音さっき聞いた音だぞ。つまりこの扉が開いたのは2回目ということになる。
誰が開けたんだ?
俺は周囲をライトで照らした。
ゴシック調の柱の一部にレバーが隠されておりそれを長門が引っ張っていた。
な、長門見つけるなよ。
「大丈夫、今は中にいない」
・・・じゃ、外にいるって事か?
うなずきやがった。
「あれ?長門、お前の親玉と?」
「今、繋がっている」
「有希でかしたわ!!さぁとつげきー!!」
ハルヒが先陣きって地下室への階段を降り始めた。
その後を全員で続く。
これは、書斎?だったのか?
階段をおりると現れてきたのは四方を本棚に囲まれた部屋だった。ただし奇妙なことに本が一冊も無い。
正面に机と椅子がある。そして部屋の中央に、これは、認めたくないが棺おけ、なんだろうなぁ。
真っ黒な棺おけだ。ふたが開いているので中まで黒いのが良く分かる。
そしてその中身は長門が言ったように空だ。
ぴちゃん。
ハルヒが床に一歩踏み出すと水音がした。



377 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:38:47.21 ID:Vcp7aD2o



どうやらこの地下室は水はけが悪いらしく床一面がぐっしょりと湿っている。
「財宝は持ち出された後なのかしらね?」
ハルヒが一通り地下室を見回った後言った。
「普通推理小説なんかだと本がずらーっと並んでいてそのうちの一冊を動かすと本棚が動いたりするんだけどね」
推理小説ではな。
「今日はここまでにしましょうか。明るくなって探せば何か見つかるかもしれないわ。一歩前進ね!」
うむ、一も二もなく賛成だ。こんな万年水浸しの部屋で夜中に家捜しなんかしたくない。
階段を上がりもう一度長門がレバーを動かした。
今度は床の扉が驚くほど静かに閉まった。
俺たちはいったん外に出でテントの準備をしたのだが、やっぱり館の近くでは寝たくないな。
館とテントの間に焚き火がくるようにテントを張った。
当たり前だがハルヒ、朝比奈さん、長門がひとつのテント。俺と古泉がもうひとつのテントで寝る。
「さぁ!日が昇ったらもう一度地下室を探索よ!寝不足は能力の低下を招くからしっかり寝ること!じゃっお休みっ!」
そんなハイテンションで眠れるのかよ。という俺の心配をよそに隣のテントはすぐに静かになった。
俺は化け物のそばで熟睡できるほどの図太い神経は持ち合わせておらず、情けないとは思いながらもナイフを手にして横になる。
それでもいつもの習慣というか慣れというか食って横になっていれば人間まぶたが重くなるもので、テントの入り口から声がかかったときには意識は睡眠状態になっていた。
「起きて」
静かな長門の一言で目が覚めた。
隣で寝ていた古泉のほうが反応が早かった。寝袋から起きだすとすぐに入り口のジッパーを開けた。
時刻は電波の届かなくなった携帯を見ると草木も眠る丑三つ時と来たもんだ。



378 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:39:03.47 ID:Vcp7aD2o



「どうしました?」
「先ほどの接続でウィルスの詳細が分かった」
長門が言う。なぜこの時間にウィルスの解説を?
とにかく俺と古泉はテントの外に出た。ありゃ朝比奈さんもいる。
「ウィルスは人間のX染色体に酷似していた。ところが宿主に選んだ人間はY染色体を持つ男性だった。ここでX染色体を模倣すればまだ良かったのだがY染色体を模倣してしまった」
長門がいきなり話はじめる。
「自らのエラー情報を少なくするために宿主を使い純粋なX染色体を求めている」
「普通の女性ではだめだったんですか?」
「一度でもY染色体との接触を持ち情報を受け取ったX染色体は対象にならない」
「なるほど」
まてまて、なんのこっちゃ?お前は分かったかもしれんが、俺にはさっぱりだ。分かるように砕いて話してくれ。
「犬の話ですが、一度でも他種のオスと性交した品種犬のメスは純血種として価値が無くなるという話はご存知ですか?」
そうなのか?
「なぜなら次に同犬種のオスの子供を生んでも不思議な事に以前かかったオスの特徴を持った子犬が産まれることがあるからだそうです」
それがY染色体の情報を受け取ってしまったX染色体という事か。
「そのようです。これは実は人間にも当てはまるみたいですね」
げ!そうなのか?そうだとするとなんとなく処女信仰が廃れないのも分かる気がするな。
「では館の主が行った吸血行為というのはエラーコピーの注入とX染色体の情報摂取だったわけですか」
長門がうなずく。
ということは今の化け物の狙いは



379 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:39:21.79 ID:Vcp7aD2o



「涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、そして私のX染色体」
って、これは、処女宣言ですか?
処女宣言したSOS団の女性陣を狙う60年前のエラー吸血鬼。
男としてこれは逃げ出すわけにいかねぇよなぁ
「最優先事項。涼宮ハルヒの安全」
長門がそう言ってTシャツを脱ぎ出した。「な、長門さん!」朝比奈さんが驚いている。
俺だって驚天動地だ。おいおいおい!どうした!
おまけに履いていた短パンも脱いだ。さすがに古泉も驚いている。
動揺が隠せない。わけを言えわけを!出来れば服を着てくれ!
長門は身につけているものが下着と靴だけの格好で言った。
「現在、情報統合思念体との接続が切れている。今の私に出来る事は涼宮ハルヒの囮になる事」
そりゃそうかもしれないがなんだって下着に、まともに会話が出来ねぇ。
「私の体からも少量ではあるがフェロモンが分泌されている。相手はそれを嗅ぎ取る」
つまり女の匂いをまき散らす為に下着になったとおっしゃるわけですね。確かに効果抜群だわ。
「だから」
だから?
「私を守って」
長門の一言で男としての魂に火をつけられた気がする。
庇護心というか父性本能というか、弱いものを自分が絶対に守るという決意。
「わかった」俺はナイフを握りしめた。



380 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:39:39.19 ID:Vcp7aD2o



長門も下着姿にナイフを装備した。下着姿とナイフってアンバランスだが、妙に格好いいな。
はっと長門が闇の一点を見つめた。
「来た」
長門の見つめる方向を凝視すると闇の中に2つの赤い点がある。というかこちらを睨んでいる。
足音を立てずにこちらに近づいてくる。
遂に姿を現しやがった。
わずかに残るたき火の明かりでも目が慣れた今ならヤツの姿がよくわかる。
黒い古びたタキシードを着込んでおりその上に外套を羽織ってやがる。
表情は無表情だが薄気味悪く瞳が赤く光っているから不気味な事この上ない。
立ち止まり俺たちを睥睨する。
当たり前かもしれないが長門と朝比奈さんを交互に見た。
無表情だった顔面に表情が浮かび上がる。
苦痛に歪められた様な残忍な笑い。口の端が極端につり上がり妙に白い牙が口から出て来た。
元は人間だから意思疎通くらいは出来るかもと思っていたが甘かった。この表情を見れば絶対に無理だと断定できる。
人間の形をとっているだけでこいつは本物の化けもんだ。吸血鬼だ!
俺の僅かに残っていたナイフを使って傷つけるという躊躇を完膚なきまでに吹き飛ばしてくれて礼を言うぜ。
長門が館の玄関に向かって走り出した。
ハルヒから遠ざかるつもりだ!俺も長門を追う。
ホールの中央に来た時点で玄関を振り返る。
玄関から黒い影が宙を飛んで階段の最上部に降り立った。ばさりと広がっていた外套が閉じる。



381 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:39:55.26 ID:Vcp7aD2o



ステンドグラスを背後に俺たちを見下ろしやがった。赤い目が長門に対して光りを増す。
ちょうど月明かりがステンドグラス越しにホールに差し込みパイプオルガンでも鳴りそうな雰囲気になった。
くそっ!見とれている場合じゃねぇ。
長門がまるで崩れ落ちそうに歩き出した。
操られている!
情報統合思念体と切断された状態では本当にただの女の子なんだな。
考えてる暇はない!俺はナイフを抜き階段を駆け上がった。
どこでもいい、ダメージを与えるんだ!
ぶん!
自分では思いきり振り切ったつもりだったがあっさりとかわされた。
しかも空中に浮いてかわしやがった。
吸血鬼はそのまま長門の目の前に降り立つ。
この野郎!!俺の存在を、ナイフで傷付けようとした存在を無視しやがって!!
敵にも値しないとされた事に頭にきて階段を駆け下りる。
吸血鬼が長門の華奢な体を両側から掴み首筋に牙を立てようとしている!
次の瞬間、吸血鬼が横に吹っ飛んだ!明らかに自らの意思では無く誰かに吹っ飛ばされたのだ。
それをした誰かは古泉だった。
古泉が長門のそばで左拳を突き出している。おいおい拳に紫電が走ったように見えたのは気のせいか?
トントン。古泉が軽くステップを踏み再び構える。ボクシングで言う所のアップライトスタイルというヤツだ。
っておい、古泉、お前も目が赤く光っているのはなぜだ?!



382 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:40:15.99 ID:Vcp7aD2o



部屋の隅まで殴り飛ばされた吸血鬼がものすごい形相で起き上がる。
しっかり起き上がる前に古泉が人間には不可能な早さの踏み込みと共に殴り掛かった。
腕の動きも目で追えない程の速度だ。正直に言って古泉の動きも化け物じみてる。
どがががが!どぐん!ばきん!
肉を全力で打ち抜く音がありえない間隔の短さで響く。
「長門さんを壁際に!」
一瞬バックステップして古泉が俺に声をかける。
長門はまだ硬直しており自分で動く事が出来ない状態だ。
俺は閉鎖空間でハルヒを抱き上げたように長門を抱きかかえた。
小泉達が闘っている反対側に長門を連れてくる。
俺も参戦をと思い振り返った。
空中戦になってる。こりゃ無理だ。
いや、古泉は空中に浮く事は出来てなかった、床と壁を蹴って飛び回っているだけだ。
古泉が空中でナイフを抜いた。終わらせるつもりだな。

吸血鬼が空中で急停止して古泉の背後に回りやがった!
古泉が無理矢理に体勢を捻って後ろにナイフの刃を走らせる。
ぱきーん!!
いい音がして根本からナイフが折られた!
次の瞬間古泉が床に叩き付けられてしまった。



383 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:40:36.12 ID:Vcp7aD2o



「ぐふっ!」あまりの勢いに古泉の体が一回バウンドする。
真上から吸血鬼が古泉に襲いかかった。
「き、吸血鬼さん!こっちです!」
玄関から可愛らしい声が上がった。
あ、朝比奈さん!下着姿で震えながらナイフを構えている!
フェロモン度で言ったら長門の10倍以上はありそうな下着姿に吸血鬼は空中で方向を変え朝比奈さんに襲いかかった。
まずい!朝比奈さんじゃやられる!俺は走り出した。
「えいっ!」朝比奈さんが目を閉じながらナイフを両手で握り前に突き出す。
きーん!「きゃぁ!」
当然の結果だがナイフは叩き折られた。
ばさりと目の前に吸血鬼に舞い降りられて朝比奈さんがたじろぐ「あ、あ、あ」
吸血鬼に見つめられて朝比奈さんの目が光を無くした。
間に合え!俺は猛然と吸血鬼にダッシュした。
ひゅん!
俺の耳のそば数センチを光が走り抜ける。
「ぎゃぁぁぁあああああああ!!!!」
吸血鬼が脇腹を押さえた。そこからナイフの柄が生えている。
振り返ると呪縛から逃れたらしい長門が片膝をついてナイフ投擲のポーズをとっていた。
口から黒い血をまき散らしながら吸血鬼がのたうち回る。
とどめだ!



384 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/25() 01:41:15.25 ID:Vcp7aD2o



ダッシュしていた俺はその勢いを緩めずナイフを振り下ろした。
がちん!避けられた!
外套を広げ空中に飛んでナイフを避けた吸血鬼はステンドグラスをぶち破りそのまま外に飛び立ってしまった。
一瞬追いかけようかとも思ったが俺は周囲を見回した。
朝比奈さんは硬直している。長門は動けるようだな。古泉が床に倒れたまま動かない。
「古泉!」
走りよって抱え上げる。
「ぐっ全員ご無事ですか?」
あぁ、お前以外はな。
「まさか貴方の腕の中で看取られるとは
そんだけ気色の悪い冗談が言えりゃ大丈夫そうだな。俺はぽいっと古泉を放した。
「いたっ!一応本当に怪我はしているんですよ。もう少しお手柔らかにお願いします」
さすがにダメージが大きいらしく古泉は倒れたまま起き上がろうとしない。
長門が近寄ってきてかがみこみ古泉の胸に両手を当てた。
「情報統合思念体との接続が切れいる状態ではこれが限界」
そう言って古泉から離れた。
「いえ、かなり楽になりました。ありがとうございます」
古泉はふらりとしながらも立ち上がった。
長門は古泉の状態に興味は無いようですたすたと朝比奈さんに近寄る。
片手を朝比奈さんの目の前においてなにやらつぶやいた。
「きゃっ長門さん、古泉君もキョン君も無事ですか?」朝比奈さんが呪縛から解放されてみんなの心配をする。
ええ、何とか無事です。朝比奈さんもご無事で何より。
「おかげさまで。あっ、こっち見ないでください!だめです!向こう向いてください!」
朝比奈さんが長門をたてにして隠れる。
俺と古泉は回れ右をした。



392 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/26() 00:13:46.03 ID:U2O3IUgo



「お前どうしたんだ?」
玄関に背を向けたまま隣りの古泉に聞いてみる。
「私の動きですか?」そうだ、目も赤く光ってたぞ。
「中途半端に能力が使えました」
なるほど、そういえばここは吸血鬼の作った閉鎖空間だったな。
「ある程度まで使えれば良かったのですが、スピードだけ上がりました。スピードだけね」
そう言って古泉は手の甲を俺に見せた。
うわっ!
人体が耐えうる速度を上回り化け物を全力で殴り続けた代償に古泉の指の付け根はぼろぼろになっていた。
「先ほど長門さんに治してもらってこれでもマシになった方です」
相変わらずのニヤケスマイルを保っているがその事に俺は少し尊敬した。
さっき放り出した事にちょっと罪悪感を覚えるな。
「そんな手じゃ何も出来ないだろう」
「明日、長門さんが情報統合思念体と接続できた時を狙って治してもらいます」
そうだな、そんな手をハルヒに見せたら大騒ぎするに違いない。
あいつの事だ、宝探しを中断してでも古泉を医者に連れてゆこうとするだろう。
そしてこの館付近から遠ざかる事が出来ない事に気がついて
その時は吸血鬼よりも世界の崩壊を気にしなきゃだめだろうな。
「あの、もう大丈夫です」
後ろから朝比奈さんがおずおずと声をかけてきた。



393 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/26() 00:14:18.50 ID:U2O3IUgo



振り返ると長門も先ほど脱いだ服を着て朝比奈さんの隣りに立っていた。
「武器が減った」
長門の一言に慄然とした。
そうだ、古泉と朝比奈さんのナイフは折られて長門のナイフは吸血鬼の脇腹に刺さったまま持って行かれたんだった。
残る武器はハルヒと俺のナイフだけだ。
ハルヒを戦いに参戦させるわけに行かない。
となると必然的に俺の持っているナイフのみで吸血鬼を倒さねばならない。
とどめを刺せる武器が唯一とは。戦局が不利になった実感をひしひしと感じてしまう。
「今もう一度襲われたら全滅ですね」古泉がいつもの口調で言う。
古泉の言葉に朝比奈さんがしおれてしまった。
「ご、ごめんなさい、私がナイフを折られなければ」あ、泣きそう。
「いえ、朝比奈さんが命がけで行動してくれたお陰で僕は殺されずにすみました。朝比奈さんのとった行動に間違いはありませんよ」
「そうですか。ありがとうございます。お見苦しい姿を晒してしまって」真っ赤になってうつむく。
いえいえ、見苦しいとはまったく対極の麗しく凛々しいお姿でした。
「僕の方こそ戦略を間違えました。確実にとどめを刺せるようにと思い、ある程度弱らせようとしたのが失敗でした」
「今夜はおそらくもう襲って来ない」
長門が言う。そうかほっとするぜ。
「ただし明日の夜は再び襲ってくる」
長門が言う。そうかぞっとするぜ。
「襲われない方法が一つだけある」



394 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/26() 00:16:12.03 ID:U2O3IUgo



なんだ?十字架でも作って館の周りに立てるのか?それともにんにくのお守りでも持つか?
「私たちがY染色体の情報を受け取ればいい」
・・・
・・

全員の時間が止まってしまった。
あー、何と返事していいのか分からんが、とりあえず絶句かな?
つまり長門が言うにはあれだろ?俺と古泉が女性陣と・・・すればいい、という事なんだろうけど。
思わず長門と朝比奈さんと古泉の顔を見比べてしまう。いや、誰が誰と、なんて考えてないぞ。ホントに。
「情報統合思念体との接続が断続的な現状では最も確実な方法」
そりゃそうかもしれんがはいそうですかと返事はできねえよ。
「確かにこの拳とナイフを失った今ではその方法が確実ではあるのでしょうが
さすがに古泉も及び腰になっている。
それにハルヒはどうするんだ?あいつと、その、あれだよ、ほら、そんなことになるなんて無理だろう?
「涼宮ハルヒは私が眠らせた。日が昇るまでは眠っている」
よけ悪いわい。眠っているのをいい事に無理矢理なんて本人の意思が全く尊重されていないぞ。
「そう」
「とにかく明日の夜までは時間があるんです。その案は最終手段にしませんか?」
朝比奈さんが真っ赤になってこくこくとうなずいた。
「情報統合思念体と接続できたときにもう一度治療してください。その治り具合をみてから考えても遅くないでしょう?」



395 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/26() 00:16:44.56 ID:U2O3IUgo



そうだな、今日はとりあえず寝ようか。
俺たちは妙にぎくしゃくした雰囲気になりながら再びそれぞれのテントにもぐり込んだ。
ふうー、色々と参ったぜ。
「特に長門さんの案に参りましたね」
まあな。
「仕方が無いとはいえ関係を持ってしまったらSOS団内の人間関係がこれまで通りとはいかないでしょうから、出来れば避けたい案ですね」
そりゃそうだ。勘のいいハルヒの事だ。何か特別な事があったなんてすぐに気がつくだろうしな。朝比奈さんなんて嘘がつけなそうだし。
「しかし、そうしないと全員死ぬとなれば、考えなければいけない案である事も事実です」
とりあえず寝ようぜ。その事を考えているとおかしくなりそうだ。
「判断の先送りはあまり感心しませんが、今は賛成しますよ。いささか疲れました」
そう言って古泉は大きく息を吸いため息のような吐息をついた。
すぐに呼吸が寝息にかわる。お疲れさん、とりあえず今日は大丈夫らしいからゆっくり寝てくれ。
俺はほとんど活躍することができなかった自分を歯がゆく思いながら寝袋の中で寝返りをうった。
しかし本当に明日はどうする?
何の打開策も思いつかないまま俺もいつのまにか意識が睡眠の海に埋もれていった。






涼宮ハルヒの純潔 その3 へ続く
posted by テリヤキ at 13:30| 京都 ☁| Comment(1) | 2ch | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Posted by at 2008年06月26日 22:18
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