2008年06月27日

涼宮ハルヒの純潔 その3

涼宮ハルヒの純潔 その1


涼宮ハルヒの純潔 その2



405 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/27() 01:02:24.35 ID:.Qsy5Oso



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3連休の第2日目。
「二人ともいつまで寝てるの、起きなさい!!」
ハルヒがテントに侵入して来てがなり立てた。
うぅ、意識が無理やり覚醒される。朝っぱらからハイテンションで怒鳴られるとかなりキツイな
古泉も当たり前だがダメージが抜けきっていないようでゆっくりと頭を振りながら寝袋から起きだした。
「おはようございます」
男二人してのそのそとテントの外に這い出る。
うぉ、どこだここ?
一面真っ白だ。テントのまわりは遠近感はおろか方向感覚すらもなくしてしまいそうな白い世界に取り囲まれていた。
霧だ。
濃霧という言葉でも追っ付かない程の濃い霧。標高の高い山とかではガスとか言うらしいがそのレベルも超えてるんじゃないか?
有効視界距離は10メートルあるかないか。
館だってすぐそばにあるはずなのにぼんやりと霞んでいる。昇っているはずの太陽の位置も分からない。
今いる場所から離れたら冗談抜きで遭難できるな。
「もうみくるちゃんと有希とあたしで朝ご飯作ったんだからね」
「お手伝いできずにすみませんでした」
うむ、悪かったな、ありがたくいただきます。
「うまく出来たかな?お味噌汁とご飯と卵焼きです」
朝比奈さんと長門が湯気の出ているマグカップと料理の乗った紙皿を渡してくれた。



406 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/27() 01:02:43.04 ID:.Qsy5Oso



おお、純和食がいただけるとは思いませんでした。
長門が古泉にマグカップを渡す時に古泉の手の上に手を重ね合わせて何やらつぶやいた。
「ありがとうございます」古泉がお礼を言う。
長門の手がどかされると古泉のぼろぼろだった手が元通りになっていた。
便利なもんだ。しかしちゃんと中のダメージまで取れたんだろうな?
「ものすごい霧ですね」
古泉がみそ汁を一口すすってから、感心したように周囲に首を巡らせた。
「朝起きた時にはもうこんなに霧が出てました。怖いけどなんだかちょっと幻想的ですよね。まるで世界がここだけになったみたい」朝比奈さんが楽しそうに言う。
いや、それかなり怖い想定ですから。
俺もこれがただの自然現象ならすごいなーで済ませられるのだが、そうでない可能性が否定できないからこの霧を不気味に感じてしまう。
これがヤツが起こした現象だとしたら何を狙ってる?
俺たちをここから出させないというなら閉鎖空間だけで十分だったはず。そこからさらに視界を奪うとなると
絶対に逃がさないという意気込みの現れ?なわけないよなぁ。
どうも頭に栄養が回ってない、とりあえず食おう。
「これだけ霧が濃いとテントも装備も湿っちゃうわね。館の中に運び込みましょう」ハルヒが言った。
なるほど、そういうことか。
より自分の陣地に招き入れるためだったか。
確かに館の周りにこれだけ濃い霧を作っておけば一旦館に入ったらそこから出ようとは思わないもんな。
卵焼きをかじりながら古泉の方を見る。
うなずいた。



407 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/27() 01:03:02.74 ID:.Qsy5Oso



同じ事に気がついたらしい。
やれやれ、ますます逃げ出しにくくなってきたな。
「さぁ!荷物を運び込んで地下室捜索の続きよ!」
俺たちが食べ終えるのを待ち構えていたハルヒが言った。
俺と古泉でホールの端に全員の荷物をまとめる。
窓から外に目をやると一面真っ白。雪の中に埋まったような感じだな。
荷物の中から古泉が超音波探査装置を持ち上げた。
「地下室の下にさらに地下室がないか調べましょう」
俺はせっかく持ってきたのに使わないのはもったいないと思い、ガイガーカウンターを手にした。
長門が再び柱の隠しレバーを引く。

バァン!

隠し扉なのになぜこんなにでっかい音がでるんだ?知ってても驚くぜ。
階段を降りてぎょっとした。
棺おけの蓋が閉まってる!
「あれ?キョン、あんた閉めた?」
あんな縁起の悪いもんにさわった覚えはないぞ。
「ナイフの用意を」古泉が装置をおろしながら俺にささやく。
ガイガーカウンターを朝比奈さんに渡し、ナイフを抜く。



408 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/27() 01:03:39.40 ID:.Qsy5Oso



長門を見る。「切断中」
古泉が浅く腰を落とし軽くこぶしを握る。
「あれ?この!しっかり閉まってるわね。キョンあんた手伝いなさい!」
恐れを知らぬ愚か者が無謀にも開けようとしているな。
俺は棺おけに近づいてナイフ片手に蓋に力を入れた。

………………

蓋が少し持ち上がった。
「えーいっ!」ハルヒが力をこめる。全員の視線が棺おけと蓋の隙間に集中する。

…………

棺おけと蓋がわずかに離れた。隙間から煙のようなものが流れ出した。ん?これは霧?しかも黒!

ぎぎぎぎ……

一気に持ち上げて反対側へ蓋を倒す。
ぶわぁ
黒い煙が棺おけの内部から外へあふれ出す。黒いドライアイスみたいだな。
「何これ?」さすがのハルヒも一歩引いた。
ががががががががが!
突然朝比奈さんの持っていたガイガーカウンターが猛烈に反応し始めた。
「放射性反応です!いったんロビーへ!」
古泉が叫び全員が地下室の階段を駆け上った。



423 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/29() 04:21:14.12 ID:Von4TVso



階段を上りきった所で全員が地下を振り返る。
ガイガーカウンターは沈黙した。
「何だったの今の?」
「地下の岩盤の隙間から放射性物質が湧き出たのでしょう。一時的な間欠泉のようなものです」んなわけあるかい。
ハルヒの問いに答える古泉に思わず突っ込みそうになる。
そういえば館に近づくときに不自然に伸びた影があったな。
あの霧のような状態が吸血鬼の昼間の姿なのか?
昼間に吸血鬼の姿でいるならナイフも使えたのだろうがあれじゃ暖簾に腕押しぬかに釘。
霧にナイフで切りつけてもダメージは与えられそうに無いな。
くそ、どうしても夜に決着をつけないといけないわけか。
「みくるちゃん、かして」
ハルヒが朝比奈さんからガイガーカウンターを受け取り前に突き出しながら階段を下りる。
こいつには躊躇とかためらいとかないのかね?
がり……………がり………………
当然かもしれないがガイガーカウンターは反応しなくなっていた。
「さすが奇人の館ね。面白いことが起きるわ!」
俺にガイガーカウンターをぽいっと放り投げハルヒは嬉しそうに言った。
「おい、ハルヒこんな危なっかしい事が起きたんだ、ここは」「徹底的に探すしかないわね!!」
俺の意図とまったく逆のことを言いやがった。
「さあみんな!壁から床からしらみつぶしに探すのよ!!」



424 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/29() 04:21:32.94 ID:Von4TVso



何にも見つけたくねぇなぁ、おい。
古泉は超音波探査装置とやらを持ち上げ床を調べ始めた。
長門と朝比奈さんは空の本棚を調べ始めた。
「キョン!あんたも探しなさい!」
仕方が無い、俺は一応探す振りをするために地下室に唯一あった椅子に座り、机の引き出しを上から順番に開けてみた。
当たり前だが何も無かった。
一番下の引き出しを閉じたときだった。
「きゃー!!!」朝比奈さんの悲鳴!
振り返ると朝比奈さんの姿が無い!
「みくるちゃん大丈夫?!」ハルヒが右手の本棚に駆け寄り声を掛ける。
『ふにぃ〜、痛いけど大丈夫ですぅ〜』くぐもった声で返事が聞こえる。
「みくるちゃん、ちょっと離れて」
ハルヒがそう言って本棚に手を掛けて引っ張った。
どんでん返しのように本棚の一部が回る。
奥で朝比奈さんが頭をさすりながら心細そうに立っていた。
「ライト!」ハルヒが伸ばした手に古泉がライトを置く。
ハルヒが奥へ入っていった。
全員がつづく。
自然石がむき出しの長い部屋だ。
その中にいわゆるアンティーク家具とよばれるような調度品が山と詰め込まれていた。



425 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/29() 04:21:49.17 ID:Von4TVso



「うーん、金と宝石で出来た王冠や、ロシア王朝の4大秘宝の5番目とかがあると思ってたのに」
もはや突っ込む言葉すら出てこないぜ。
「あ、これ部室であたしの椅子にしよっと、キョン運び出して」
立ち直りの早いヤツ、しかも人使いの荒いヤツ。いつものことか。
俺はハルヒが目をつけた装飾のごたごたした椅子を持ち上げた。
「まさかこの家具全部持ち出せとか言うつもりじゃないだろうな」
「当たり前じゃない、夕方までに全部上に上げるのよ」
あのなぁ夜には吸血鬼と殺し合いをしなきゃならんのにこんな事で体力を使いたくないぞ。
調度品の中にベットがあるな。くそ、いっそのこと
長門案を安易に選択しそうな気分になった。いかんいかん。
古泉が困ったような笑い顔でこっちを見ていた。
「俺は何も考えてないぞ」
「僕も何も言ってませんよ」
「決断するなら早めがいい」長門が後ろからささやいた。
俺ってそんなに顔に出やすいか?
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古泉と二人で全ての調度品をホールに運び終わった時には昼なんてとっくに過ぎた頃だった。
運んだ調度品の中に全てが曲線で作られた木製のベンチがあり俺と古泉はそれに座り込みぐったりした。
「二人とも元気出しなさい!これで殺風景な部室も賑やかになるわ!」
ばかたれ。お前がごみと備品の境界すれすれのものを持ち込みまくってるあの賑やかな部室にこれ全部入れたら床が抜けるぞ、抜けなくても人の立てるスペースがなくなるわい。



427 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/29() 04:22:07.67 ID:Von4TVso



ホールに円形に並べられた数々の調度品たちはアンティーク家具の見本市といった風情をかもし出している。
ハルヒは大喜びで朝比奈さんをベットに押し倒して悲鳴をあげさせていた。
「ハルヒ、腹が減ったぞ」
ベットで朝比奈さんの胸を揉みながら耳に噛み付くというなんともうらやましい事をしているハルヒに声を掛ける。
「あたしも減ったわ」
昼飯は作ってない、と。
もう文句を言う気も動く体力もねぇ。俺は天を仰ぎ見た。あー天井だー。
「食べて」
長門の声で俺は首を戻した。
焼きそばが山盛りになった紙皿を二つ持って長門が立っていた。
「ありがとうございます。いただきます」古泉が受け取る。
「助かるぜ長門」俺も礼を言って受け取った。うは、具がざく切りキャベツだけとは長門らしいな。
「あ!有希あたしにもちょうだい!」
こくりとうなずくと長門は外に出てゆき、同じようにやきそばが山盛りになった紙皿を器用に3枚持ってきた。
ハルヒと朝比奈さんが受け取る。
「さっすが有希!手回しがいいわね!」お前がはしゃいで飯の準備を忘れてただけじゃ。
「あ、あの、ごめんなさい、お手伝いしなくて」「いい」
「いただきまーす」全員で食べ始めた。
重労働の後の飯は何でこんなにうまいんだ。
「おいしい!」重労働をしていないハルヒも賞賛しているところを見ると純粋にうまいんだな。



428 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/29() 04:22:26.43 ID:Von4TVso



しばらく俺たちはアンティーク家具に囲まれながら長門のやきそばを楽しんだ。
ふぅーごちそうさん。
食べ終わって窓の外に目をやる。やはりまだ霧は出ている。濃さは相変わらず。
「さあ!さらに奥を探すわよ!」
こいつは鬼だ悪魔だ吸血鬼だ。
「キョンとっとと探しなさい!」鬼より怖い団長にケツをこづかれながら再び地下室にやってきた。
それから全員ライトを手にして地下室と石部屋をくまなく探したのだがこれ以上隠し部屋はなかった。
「ま、これだけでも収穫よね!」
ようやく現状に満足したらしいハルヒがそう言ったのはそろそろ夕方から夜になりかけている頃だった。
「ずいぶん時間がかかっちゃったけど、今日はお宝発見パーティーよ!」
前半部分の台詞が妙に引っかかるな、お前が手伝えばもっと早くなったとは思わないのか。
とりあえず全員で外のかまどで料理を始める。
基本的にキャンプでは焼くと煮るしか出来ないから出来る料理も限られるだろうと思いきや、SOS団の女性陣の料理の腕前は天井知らず。
かなりの悪条件だと思うのだが作られる料理はかなり凝ったものまで出てきた。
ご飯をメインにしてチャーハン、リゾット、野菜スープに卵スープ、ナスと肉の味噌煮込み、ジャガイモとにんじんのソテー、等々。
よく調味料を持ってきたなと感心する。
ホールにあった大きなテーブルを真ん中に移動してその上に数々の料理を並べた。
各自適当に古風な椅子を引きずってきて着席した。
「ほら!もう役に立ったじゃない!」ハルヒが俺に向かって勝ち誇った。もう俺の負けでいいよ。
「ではSOS団のお宝発見パーティーをここに開催します!かんぱーい!」



429 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/29() 04:22:46.66 ID:Von4TVso



「乾杯!」全員水で乾杯する。
とりあえず近いところにあった料理に手を伸ばす。
うまい
朝比奈さんがどきどきしながらこっちを見ている。
「おいしいです」
「あ、お粗末様です」座ったままぺこりと頭を下げる。ああ、麗しい。
「まずいなんて言ったら承知しないからね!」いえねぇ、恐ろしくていえねぇ。
しかしそんな心配は無くとにもかくにもどれもこれもうまくて俺たちは舌鼓を打ちながら色々な皿に互い箸を伸ばした。
「あ!キョン!そのジャガイモ遠慮しなさい!あたしが食べようと思っていたのに!」
「弱肉強食だ、もう口に入れたからあきらめろ」もぐもぐ。
「このー!」ハルヒが俺の皿に神速で箸を伸ばした。
「あ!人の取り皿からとるのは反則だろう!その鶏肉吐き出せ!」
「もう飲み込んだからあきらめなさい!」
てめ、よく噛みもしなかっただろう、味わいもせずに飲み込みやがって、肉だって俺にじっくり味わって欲しかったに違いない。
「あの、私のでよかったらどうぞ」朝比奈さんがにっこりとご自分の取り皿を差し出してくれた。
そこには俺の食べ損なった鶏肉の甘辛煮が乗っており「わるいわね」ハルヒが食った。
「あー!」本気で声を上げちまった。
「うーんおいしいわ!」ものすごい笑顔をみせられた。結構に腹って立つもんだな。
くそー、本気で長門案を採用してやろうか。
古泉をちらりと見る。



430 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/29() 04:23:09.65 ID:Von4TVso



「僕は何も言ってませんよ」
「俺も何も考えてねぇ」
「だからあんた抜けてるのよ」
ほんっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ気で採用してやろうか。
俺とハルヒだけ大騒ぎしていたような気もするが宴会だか食べ合いだかよくわからない催しも夜が更けた頃にはお開きになった。
「今日は外じゃなくてこの中で寝たほうがよさそうね」
ハルヒの指定で2階の左側、一番奥が女性の部屋、その隣が男の部屋になった。
部屋の前の廊下からホールを見下ろしながらハルヒに言った。
「ハルヒ、お前これ本気で全部持って帰るつもりか?」
「当たり前じゃない」
「どうやって持って帰るか方法とか考えてるのか?」
「何とかなるわよ」
考えてねぇ、絶対に考えてねぇ。
「じゃ、おやすみ!」
ハルヒはそう言って朝比奈さんを引き連れて奥の部屋に入っていった。
廊下に残った長門がいつも通りの無表情な顔で言った。
「午前2時に敵はやってくる。だから決断するなら少なくとも0時までに部屋を尋ねて来て」
言われて吸血鬼との対決が迫ってきているのをあらためて思い出す。
長門がくるりと背を向けるとすたすたとドアの前まで歩いてノブに手を掛けた。
止まってこちらを見る。
「待ってる」
バタン。



431 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/29() 04:23:23.89 ID:Von4TVso



え?お誘い?
俺と古泉は隣の部屋に入った。
当たり前だが寝袋に入るような事はしない。
時間は23時を過ぎている。長門の言ったタイムリミットが迫ってきた。
俺は寝袋を枕にして天井をにらんでいた。
古泉は壁にもたれて座っている。
どちらとも何も言わない時間が過ぎる。
「古泉杉田さんが別れ際に言ってた事覚えているか?」
色々と考えた挙句、俺は考えを口にした。
「はい、女を守るのは男の仕事、でしたね」
「その長門の方法は守るように見えて、いや一時的に守る事にはなるんだが、本質では傷つける事になる気がする」
古泉に決断を告げる。
「すまないが死ぬことになるかもしれんが、俺に付き合ってくれ」
「お供しますよ」いつものスマイルが、いつも通りなのが妙に頼もしい。
俺と古泉はどちらからというわけでもなく拳を握り、ごつ、と一回ぶつけ合った。
時刻は0時を回った。



440 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/30() 02:14:40.31 ID:E.kZHREo



長門が予告した襲撃時間まであと1時間を切った。
「そろそろ部屋の外で待機しようぜ」俺は立ち上がった。
「そうですね」古泉も立ち上がる。
「これお前が持っていた方がいいんじゃないか?」俺はそう言ってナイフを出した。
「しかしそれではあなたの身を守るものが無くなります。涼宮さんの安全も重要ですがあなたの安全も同レベルに重要なんですよ」
そらどうも。あまり重要人物扱いされても居心地が悪いな。
「僕は吸血鬼の動きをなるべく封じるようにします。とどめはあたながさして下さい」
「わかった」
俺たちは部屋の外へ出た。
どうやら、外の霧は晴れたらしい。昨日と同じようにステンドグラスから月明かりがホールに差し込んでいる。
ホールに浮かび上がっているようなアンティーク家具が物言わぬ群集のようにその影を床に斜めに伸ばす。
「ゴングです」古泉が言った。
突然ホールの床がまるでエレベーターのように沈み始めた。見る見るうちに遠ざかり暗闇の底に消えてゆく。
不思議なことに階が増えてゆく。ここはいったい地上何階になったんだ!?
天井も伸び上がりはるかかなたへ消えていった。やはり階数が増えてゆく。
右の壁も左の壁も猛烈な勢いで遠ざかり視界から消えた。遠ざかりながら扉が増えてゆく。
対面も遠ざかり暗黒に消えて行った。目の前に暗黒が広がった。
廊下の手すりから身を乗り出して上を見上げた。同じ手すりの平行線が延々と続き悠久の暗闇に溶けている。
下を見下ろす。同じく無限の同階層が連綿と積み重なっていた。
右を見ても左を見ても同じ風景。永久に続く扉の数々。これだけで精神的なダメージがあるな。



441 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/30() 02:15:01.37 ID:E.kZHREo



「これは驚きですね」
全くだ。
周囲の風景に驚いていた古泉だが、はっとしたように俺たちが出てきた扉を開けた。
「よかった、僕たちのいた部屋です」
古泉はそう言って部屋の中から金属製のマグカップとライトを持ち出してきた。
ひょいっと手すりの向こうに放り投げる。
くるくると回転しながらマグカップが落ちてゆく。それをライトの明かりが追う。
落ちてゆく落ちてゆく落ちてゆきますな……落ちていってしまいましたな。ついに明かりが届かなくなった。

………


待っていても底に落ちた音がしない。
「ずいぶんと不利な状況になりましたね」古泉がライトの明かりすら届かない底なしを見下ろしながら言った。
落ちて死ぬのではなく永遠に落ち続けるってどんなもんだろう?永遠に暗闇を落ち続ける。絶対に避けたい人生のエンディングだな。
「隣の部屋がちゃんと隣の部屋のままか確認しましょう」
古泉がハルヒたちが入った部屋の扉をノックした。
がちゃり。ほっ、いたか。
長門が顔を出した。「涼宮ハルヒは眠らせた」
朝比奈さんが続いて出てきて周囲の状況を見ると目を丸くした。「うわぁ広いですね〜」
「ご覧の通りの状況でして」



442 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/30() 02:15:22.22 ID:E.kZHREo



長門が扉を背にして暗闇を指差した。
「お出まし」
長門の指差している方向を見つめた。何も見えない。
ゆっくりと赤い二つの光が見え始めた。
どうやらこの館のご主人様は空中を歩いてこちらにお近づき遊ばされているらしい。
どこから入ってきているのか分からない月明かりの中に全身を現した吸血鬼は空中で立ち止まった。
長門と朝比奈さんを見ると、きゅうっと口の両端がつりあがり牙をむき出した。
「部屋に!」古泉が二人を押し込むように部屋へ入れて背中で扉を閉めた。
ばたん!
その音を合図にしたかのように吸血鬼は古泉めがけて一直線に飛んできた。
古泉が右ストレートを吸血鬼の喉めがけて放った。
「ぐげぇ!」
呼吸器官はさすがに効くらしい。バサリと外套を広げるといったん空中に戻った。
古泉の隣に俺も立ち、ナイフを握り次の攻撃に備える。
何を思ったか吸血鬼は俺たちの何階か下の階の廊下に降り立った。
バタン。
音から判断するに部屋に入った?
古泉と顔を見合わせる。何のために?
バタン。
上の階から音がした!



443 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/30() 02:15:33.92 ID:E.kZHREo



バタン。左から音がしたぞ!
バタン。右に現れた!
俺たちのいる階の右側の何番目かはわからないがそこから吸血鬼が出てきた。
古泉があっという間に距離をつめて殴りかかった。
ぶん!こぶしが空を切る。
吸血鬼がふわりと消えた。
古泉がこっちを振り返り叫んだ。「伏せて!」
瞬時に何が起こったか理解して俺は前に飛び伏せた。
古泉が俺の上を跳び越しながら蹴りを放った。
「また幻です」俺の後ろに立った古泉が言った。
バタン。またどこかで扉の閉まる音がした。
「今更ですが長門さんの案を採用しなかったことに少し後悔しますね」
同感だ。
俺と古泉は守るべき扉の前で背中を合わせながら冷や汗を流していた。
バタン。
扉の閉まる音が近づいてくる。



480 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/02() 08:07:51.31 ID:wmM.QRQo



バタン。
俺たちの真上のドアが閉じた。
天井をにらむ
無音の時間が過ぎる
バタン。
今度は真下のドアだ。意識を上下に揺さぶられ、ぎくりと体がすくむ。
再び無音の時間。手すりの根元、廊下の縁に目が行く。
俺たちが完全に自分の手中にあることを実感させる気か。くそっ緊張で神経が磨り減る。
「ガァアアア!!!!」
上から襲ってきやがった!
「うわぁああ!!!」反射的にナイフを突き出す!
古泉も拳を突き出した!
消えた!また幻だ!
ドン!!真横からものすごい衝撃をくらい俺と古泉は同時に吹っ飛ばされた。
衝撃で廊下を数メートル転がりすべる。
古泉と同時に立ち上がり吸血鬼に向かって走る。くっ!左肩が!
古泉が思い切りかがみこんで下からわき腹に拳を走らせた。長門のナイフが刺さった場所だ。
「がっ!」吸血鬼の口から黒い血が飛び散る。完治はしてないらしい。
俺は心臓めがけてナイフを突き出した。しかし俺がナイフを突き出す速度よりも速く吸血鬼が後ろに飛び下がった。
下がった吸血鬼がすぐさま近くの扉に入った。



481 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/02() 08:08:23.39 ID:wmM.QRQo



バタン。
「これを連続でやられると
「精神的にかなりきついですね」
いつ本物がくるか分からない恐怖に加え、その考えがあるから幻でも攻撃せざるを得ないという緊張。
ぶっちゃけこれを長時間やられたら体力よりも気力が先に萎えて殺られる。
くそっ!自分の行く末を自分で予想してしまったことに背筋が凍った。
どこかで打開策を見つけないと本気でヤバイ!
痛められた左肩が心拍数の上昇を告げる。ズキン、ズキン、ズキン
「どうする!?」
「どうしましょうか?」
背中越しに聞こえる古泉の声にも余裕が無い。
バタン。
どこかで扉の閉まる音がした。
その音に神経が縮み上がるのが無性に腹が立つ。
「くそぉ!」
「落ち着いてください。敵の術中にはまります」
「分かってる!」
分かってはいるのだが俺は怒鳴り返してしまう。
バタン。
焦りをあざ笑うかのようにまたどこかで扉が閉まる。



482 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/02() 08:08:42.10 ID:wmM.QRQo



くそっくそっくそぅっ!!!!!
バタン。
右の扉が閉まる。
バタン。
左の扉が閉まる。

沈黙の時間。神経がガリガリと音を立ててすり減ってゆく。
廊下の暗黒から吸血鬼がものすごい勢いで牙と爪を尖らせながら俺に向かって来た!
「っ!!」
半分以上恐怖でナイフを突き出す。刃が届いたと思ったらまた消えやがった!
「消えました」古泉にも同じことが起こったらしい。
「ぐっ!!」古泉の漏らした苦痛の声に思わず振り返る。
吸血鬼が古泉の足首に喰らいついていた!古泉が上から拳を叩き下ろす。
ドン!古泉の拳が廊下を叩いた。
あっという間に吸血鬼は暗闇に溶ける。
バタン。
突然俺たちの守るべき扉が開いて驚いた。
そして下着姿の長門が立っていてなお驚く。
「私を狙うのが本物」
突然正面の暗闇から吸血鬼が音も無く長門に襲いかかった。



483 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/02() 08:09:00.71 ID:wmM.QRQo



吸血鬼に押し倒され長門の伸びた素足が宙に跳ね上がる。
考えるよりも早くその背中に飛び込むようにナイフを突き立てた。
刺さると思った直前、またしても避けられた。
刃の先には長門が倒れており我ながらすばらしい反射で刃先を外した。
刃先は逸らしたが体はそのまま倒れている長門の上にのしかかってしまった。
」長門が俺の下で目線をそらして腕を組んでいる。
よく見たら腕を組んでいるのではなかった。
ブラがずれてしまっており胸のふくらみを両手で隠していたのだった。
「す、すまん」
俺は慌てて体を離した。
長門も片手で胸を隠したまま上半身を起こす。
「伏せて」
反射的に頭を下げる。
俺の髪の毛を数本引きちぎりながら長門の蹴りが飛んだ。ドスゥ!蹴り飛ばした音がする。
座った体勢からの蹴りだった為に長門が蹴り足を伸ばしたまま俺の頭の上にお尻を落とした。
長門のお尻に後ろ頭を押さえつけられておでこを床にぶつける。
「いて!」やわらかい!
相反する感覚に脳内が驚いた。
「失態」
長門がそう言って俺の頭からお尻をどかして立ち上がる。



484 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/02() 08:09:17.35 ID:wmM.QRQo



俺もあわてて立ち上がった。
長門が俺に背中を向けてブラをつけ直す。
その向こうから赤い目と牙がものすごい勢いで迫って来た。
ブラを止めようと背中に両手を回していた長門の首すれすれにナイフを突き出す。
「ぐぎゃぁあああああああおおおおお!!!!!」
吸血鬼の大きく開いた口の中にナイフが深く刺さった。
叫びとともに俺の手首に牙が切れ込み傷が無数に走る。くっ!!!
びしゅん!!!
ものすごい風切音と共に俺の耳の横を古泉の拳が通り過ぎ吸血鬼の顔面を直撃した。
吸血鬼が後ろにふっとび俺は右手首を押さえ込んでナイフを落とした。
手首までべっとりついた黒い血を押しのけるように赤い血が湧き出てくる。
ウィルスの注入なんてされてないだろうな。
痛みをこらえて左手でナイフを拾う。
「ぐっ!」
長門が背中にくるように移動する。
古泉もそうしたのが気配で分かる。
二人で長門を背中で挟みガードしながら攻撃に備えた。
背中越しに声を掛ける。
「古泉、傷の具合はどうだ?」
「正直あまりよくありませんね。足の動きを封じられました。そちらの具合は?」
「右手を封じられた」
放っておいて治るような傷ではないらしく手首から流れ出した血が肘につたわり垂れている。
おそらくじっくり見ていないが古泉も似たような状態だろう。



492 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/02() 20:34:46.74 ID:jUnaPSYo



「吸血鬼にもダメージは与えています。今の一撃はお見事でした」
そらどうも。けどこのままじゃ俺たちの血は流れ出る一方だな。
「そうですね短期決戦が望ましいのですが
古泉は最後の言葉を濁したが何を言おうとしていたのかは分かる。
このまま時間をかけられると不利になり続けるのはこっちだ。
エラー吸血鬼にもそれくらいの知恵は働くのかドアの音がしなくなった。
待っていればいるほど状態は悪くなる。
長門が後ろから手を伸ばしてきて俺の傷口に触れた
痛みが少し和らいだ。心無しか流れ出る血も少なくなった気がする。
「すまないな」「いい」
かがみ込んだ長門が同じように古泉の血まみれになった足首に手を伸ばした。
「助かります」「いい」
長門のおかげで多少俺たちの持ち時間は延びたがそれでも戦況をひっくりかえす程ではない。
時間をかけられたらいっそう不利になり続けるという事実は変わっていないのだ。
「こちらから仕掛けられないというのがツライですね」
古泉が言う。
俺は左手でナイフを逆手に持ち右手を添えた。
「ヤツの巣のど真ん中だからな」
バタン。






涼宮ハルヒの純潔 その4 に続く
posted by テリヤキ at 03:21| 京都 ☁| Comment(1) | 2ch | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
続きが気になる…
Posted by at 2008年06月28日 01:51
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