2008年07月03日

涼宮ハルヒの純潔 その4

涼宮ハルヒの純潔 その1


涼宮ハルヒの純潔 その2


涼宮ハルヒの純潔 その3



493 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/02() 20:35:02.98 ID:jUnaPSYo



長門が部屋に入っていった。
なんだ?突然の行動に毒気を抜かれる。
すぐに出て来た。うわぁ。
下着姿の朝比奈さんを引き連れてる。
出て来るまでの時間を考えると朝比奈さんも下着姿で待機していたみたいだ。
「あ、あんまり見ないで下さい」もじもじしてたが俺と古泉の傷に気がつくと顔が蒼白になった。
「二人とも大丈夫ですか!絆創膏ありますけど使いますか?」
絆創膏じゃ多分この出血はとまりません。だけど
朝比奈さんの必死なおとぼけぶりに少し余裕ができた気がする。
「ありがとうございます、朝比奈さん」
「はい、助かりました」古泉も同じ心境だったようだ。
「え?え?なんですかぁ?」意味も分からずお礼を言われて頬に手をあてて困惑した。
俺と古泉は朝比奈さんと長門を背中にして暗闇に向き直った。
(女を守るのは男の仕事、か)
俺はもう一度自分に言ってみた。
だれも何も言わない時間が過ぎる。
朝比奈さんのフェロモンにも誘われて出て来ないとなると、もしかしてさっきの一撃で倒せたのか?そんな楽観的な考えが頭によぎった。
「ひっ!」背中から朝比奈さんの引きつった悲鳴が聞こえた。
慌てて朝比奈さんを確認する。



494 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/02() 20:35:19.83 ID:jUnaPSYo



朝比奈さんは恐怖で引きつった顔で長門はいつも通りの表情で正面の暗闇を見つめていた。
二人の目線の先、広大な暗闇にいつの間にかヤツが浮いていた。
距離は離れているが脇腹と口からかなり大量の黒い血を流しているのが見て取れる。床があれば滴るぼたぼたという音が聞こえているかもしれない。
傷は確かにひどい、しかしその傷はヤツにとって大したものじゃないのか?
吸血鬼が口の両端をゆっくりとつり上げる。
ぎぎぎぎ・・・
そんな幻聴が聞こえそうだ。暗闇に妙に白い歯が不気味に光る。
俺は長門の前に立つ。古泉が朝比奈さんの前に立った。
腰を落として突然の動きにも対応できるように構える。
「あと何発くらいパンチは打てそうだ?」
「全力でせいぜい10発ですかね」弾数は残り少ないか。俺も片手をやられているし、まいったねこりゃ。
ヤツがゆっくりとこちらに向かって歩き出した。一直線だ。
空中を歩いているので足音は聞こえないが、ゆっくりとした歩調を刻んでいる。
近づきながら両腕を大きく広げはじめる。
引きつったように曲げられた指先が5本とも俺と古泉の顔面を狙っている。
どうやら獲物を直接狙う前に邪魔者を排除する事に決めたようだ。
視線のまっすぐ延長線上に鋭い爪が5本俺に向いている。狙われているという実感が背筋を凍らす。
すー吸血鬼が加速し出す。
来る!!
思った瞬間には俺の目の前に不気味に尖った牙が俺の顔面直前にあった。



495 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/02() 20:35:47.05 ID:jUnaPSYo



俺狙いだったか!本能的に顔を両腕でガードする。
がちゅう!!!
俺の右肘に噛み付きやがった!
そのまま飛びつかれた勢いでドアの並んでいる壁をかなり引きずられ床に押し倒された。
それでも俺の肘を離さねぇ!サメかお前は!
噛み付いたままヤツが立ち上がり俺は無理矢理引き上げられた。
「ぐぁあああ!!!!」傷口になおも加えられる痛みに悲鳴が出る。
それでも逆手に持った左手のナイフをヤツに突き刺そうと振り上げたがその腕を吸血鬼が万力の様な力で握ってきた。
ものすごい握力にさらに力が加わり俺は振り上げたままナイフを落としてしまった。俺の後ろにナイフが落ちる。
どうん!吸血鬼の体が大きく震えた。
「耐えて下さい!」古泉が吸血鬼の背中を殴ったらしい。
どがががが!ドン!ドスン!ドドン!
「おおおおおお!!!!」古泉がヤツらしからぬ雄叫びを上げながら殴り続ける。
古泉やめろ!10発が限界とてめえ自分で言ってたろうが!!俺は僅かでも抵抗をと足をジタバタさせる。
「うおおおぉお!!!」
古泉の雄叫びとともに吸血鬼の腹から何か飛び出した!
手だ!古泉が抜き手で吸血鬼の腹を突き破ったのだ。
だかその手の甲の内側から白い骨が飛び出している!俺の為に限界以上に殴り続けたからだ。
ずちゅん!古泉が手を引き抜いた。
さすがに体内を異物が通り抜けては平気でいられないらしい。牙と手が緩んだ。
傷口が広がるのも構わず振り払う。
「ぎゃぁあああああ!!!!」口が自由になった途端叫び出しやがった。
その吸血鬼を古泉が後ろから羽交い締めにした。
暴れ続ける吸血鬼を古泉が引きずる。何をするつもりだ?!
古泉が手すりに片足を掛けた。
ひょいと俺に顔を見せる。
「それじゃ、涼宮さんによろしく」いつもどおりの爽やかスマイル。
「まて!古泉!」
もう片足で勢いをつけて古泉は吸血鬼を抱えたまま手すりを大きく飛び越えた。古泉が吸血鬼を抱えたまま自由落下に入る。
「ばかやろう!」
俺は古泉の後を追って手すりに足を掛け永遠の暗闇に体を躍らせた。



505 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/03() 20:41:42.24 ID:vvrwkiMo



俺は手すりを踏みつけた感覚を最後に一切の支えを失った。
圧倒的な存在感をもつ無限の空間が足元に広がり大きく口を開けた。
一瞬の無重力。そして先に落ちた古泉たちに向かい引きずられるように猛烈に加速し始める。
耳元で風がうなりをあげ始めた。
俺は振り返りもせず片手を後ろに伸ばし叫んだ。
「長門!ナイフ!」
落ちてゆく俺の手の中に正確に何かが飛んで来て俺は確認もせず握りしめる。
勿論長門が正確無比に俺の手に収まるように柄を先にして投げてくれたナイフだ。
空中で両手に持ち大きく振りかぶる。力をこめると手首とひじから血が噴出し上に向かって飛び散った。
「古泉ぃ!止まれぇぇ!!!!!」
一瞬でいい!!止まってくれ!!!
俺の足下を先に落ちて行っている古泉が瞬時に意図を理解し目を赤く光らせる。
急速に吸血鬼が足下に迫る。やった!止めやがった!
俺は飛び降りるように心臓めがけてナイフを振り下ろした!「おおおおおおおお!!!!!」
「ぎゃぁああああああ!!!!」
最後の抵抗で吸血鬼が暴れ、この期に及んで俺は心臓を外してしまった。ナイフはみぞおち辺りに刺さった。
くそ!もう一度!吸血鬼を踏みつけナイフを抜く。
バアン!「ぐはっ!!」「ぐぁっ!」
突然下からせりあがって来た何かに思いっきり全身を強打され体が跳ね上がる。
「ぐぅ!……くそっ」あまりの衝撃と痛みに息が止まる。激痛に体をえびぞりにしながらも周囲を確認する。



506 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/03() 20:42:04.96 ID:vvrwkiMo



館のホールだ!今の一撃で無限空間が解除されたんだ!
どうやら俺たちはホールに置いてあった夕飯のときに使ったテーブルの上に落ちたらしい。
バラバラになったテーブルの残骸の中に古泉がぐたりと仰向けになっている。
「古泉!」
骨の突き出した血まみれの手を震わしながら古泉がゆっくり2階を指差した。
(守ってください)
「古泉死ぬなぁ!!」
叫びながら俺は足元に落としていたナイフを掴むとなおも階段を平然と登ろうとしている吸血鬼の背中に迫った。
目の端に古泉の腕がパタリと落ちるのが見えた。
「おぉおおぉおおぉおおぉお!!!!!」
半分恐慌状態になりながら階段の中ほどまで上った吸血鬼に追いすがりナイフを突き立てた。
ばっ!外套を翻し吸血鬼がナイフを避け、振り返りざま俺の首を握り締めた。
ぐっ!!心臓に!!
ナイフを暴れさせるが首を絞められなおかつ持ち上げられつつある状態ではろくな傷を負わせられない。
足が空をける。
「きゃぁ!キョン君!!」朝比奈さんが叫ぶ。
その声に吸血鬼が反応し2階の廊下にいた朝比奈さんと長門を見据える。
(逃げて!逃げて下さい!!!)手でジェスチャーをする。逃げろ!!
吸血鬼は俺の首を絞め持ち上げたまま階段を上り始めた。
くそっ意識が遠くなる。ハルヒ



507 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/03() 20:42:28.55 ID:vvrwkiMo



「ぎゃぁあああああ!!!!」
吸血鬼の悲鳴と共に喉から手が離され俺は階段に転がる。
急激に肺に入ってきた空気にむせこんだ。
「ぼうず、よくやった」
声の人物は直径1メートル程の半円の黒い鉄板を吸血鬼の脳天に叩き込んでいる。
「ふん!」気合と共に鉄板を引くと吸血鬼の頭が左右に避けた。それでも吸血鬼は倒れず何歩か階段を上る。
「おい、大丈夫か?」
山で見た柔和な目がステンドグラスから入り込む月明かりに照らされて俺を心配そうに覗き込んでいた。杉田さん!
「杉田さんごはっ!あいつの心臓に、ぐふっ!このナイフをっ!」
「安心しろ、鬼切刃ならこいつも持ってる」
そういって杉田さんは先ほど吸血鬼の脳天に食い込ませた半円の鉄板を月明かりにかざした。
それは鉄板ではなく、のこぎりだった。まるで小学生のとき先生が黒板用に使っていたでかい分度器くらいの大きさがある。
その直線部分に普通ののこぎりの刃とは比べ物にならないほどのでかい刃が並んでいた。
もはや工芸品か博物館の資料室に眠っていそうな代物だ。
杉田さんが、ぶんと音を立ててのこぎりを振りかぶり吸血鬼に向かう。
一番手元にあるもっともでかい鬼切刃がぎらりと嬉しそうに光った。
「ふん!」
階段を上りきり朝比奈さんと長門に迫ろうとしていた吸血鬼の胴体に何の躊躇も無く杉田さんがのこぎりを叩き込む。
「そらっ!」
思い切り引く。吸血鬼の腕が落ち、なおものこぎりは胴体に切れ込む。



508 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/03() 20:42:43.78 ID:vvrwkiMo



「ガアァアアアアア!!!!」
吸血鬼が振り向き爪を振った。
杉田さんが咄嗟にのこぎりを盾にする、
ギャリン!!爪がのこぎりに当たりものすごい火花がフラッシュのように飛び散った。
杉田さんは恐れる事無く一歩踏み込みもう一度のこぎりを叩き込む。
「ふん!」
がちん!
片手で吸血鬼がばかでかいのこぎりを受け止めた。
「ぬぅ!!」杉田さんが力を込めると腕の筋肉がこぶのようにふくれあがる。
吸血鬼ががっちりと刃を掴んでいる。
「往生せい!」杉田さんが腰を落とし更に力を込める。
両者とも動いていないが凄まじい力がぶつかり合っている。ぶるぶると震えているのが分かる。
その力の応酬に最初に耐えられなくなったのはのこぎりだった!
バキン!
吸血鬼がのこぎりを握り割った!



518 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/05() 06:00:25.12 ID:6Mkr4J6o



割ったと同時に吸血鬼が片腕で杉田さんを持ち上げ、投げ飛ばす。
杉田さんは2階の反対側の廊下までころがされてしまった。
吸血鬼は切断された腕を拾い傷口と傷口を合わせる。
触手のようなものが湧き出して切断された腕をつなげた。しかし腕の長さが明らかに違う。傷口からはなおも触手が蠢き跳ね回っている。
吸血鬼は自分の左右に切断された頭を外から手で挟み、びちゃりと音を立てて押し付けた。
同じように脳天から割れた傷に触手が蠢く。
そのまま、吸血鬼は朝比奈さんと長門の前に立った。
まずい、朝比奈さんが腰を抜かして長門にしがみついている!
あれでは二人とも動けない!
長門は朝比奈さんを守るように抱えながらも冷静な目で吸血鬼を見ていた。
俺は立ち上がり吸血鬼に近づこうとする。くそっ!さっき階段に落とされたときに足を挫いたらしい。
その横を杉田さんが平然と通り過ぎた。
「ぼうず、最後の仕事だ。いくぞ」
俺に振り向きもせず言葉をかけ、吸血鬼の真後ろに立った。
吸血鬼の襟首と袖を握る。
「ふん!!!」
綺麗な一本背負いを吸血鬼の背中側からかけ廊下の端に投げ飛ばした。
長門と朝比奈さんを背にし吸血鬼の正面に仁王立ちになる。
武器は持っていないが、それだけに堂々たる姿だった。
「おいぼうず、俺が喰われている間にとどめをさせ。できるな?」



519 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/05() 06:00:45.06 ID:6Mkr4J6o



死ぬ気か?!
途端に古泉の姿と重なる。
足を挫いたくらいで立ち上がりもしなかった自分が情けない。
「ぬぅ!」よろけながらも俺は立ち上がった。階段を上る。
「いいツラだ」杉田さんが満足そうに笑う。
「待って、あなたに命をかける義務は無い。可能なら逃げて欲しい」
長門が杉田さんの後ろから声を掛けた。他人の心配をするなんて珍しい。
「義務でやってるわけじゃねぇ。俺より若いのがユキが死ぬのをもう見たくないだけだ」
杉田さんの正面に口を上下左右に割りながら吸血鬼が迫った。
もはや数多くの傷と噴出する黒い血、それを修復しようと中から溢れ出んばかりのうごめく触手に吸血鬼という言葉のイメージとは程遠い生き物になっている。
「生きろ!」
そう言って杉田さんは自分から吸血鬼との間合いをつめる。
「ガァア!!」吼えながら吸血鬼が杉田さんの首筋に噛み付いた!
「ぬぅ!!」
杉田さんががっちりと吸血鬼を抱きかかえる。
そのまま杉田さんは吸血鬼を引きずり壁にもたれた。
「こい!ぼうず!」
俺は足を引きずりながらも吸血鬼に近づき、ナイフを大きく振りかぶる。
俺の接近の気配に気づいてか、吸血鬼が杉田さんの腕の中であがき始めた。
腕を振り回し爪と牙を杉田さんに立てる。しかし杉田さんはますます締め付けるだけでびくともしない。



520 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/05() 06:01:03.19 ID:6Mkr4J6o



「おおおおおぉおおおおお!!!!」
俺は吸血鬼の肩甲骨の間、その先の心臓をめがけてナイフを突き立てた。
「ギャァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
明らかに今までとは違う断末魔の悲鳴!!
手足を恐ろしいほどに伸ばし杉田さんの中で高速に痙攣する。
ぴたりと動きが止まる。
静寂。
ざざぁ。吸血鬼は突如として砂となり杉田さんの足元に小さな山を作った。
「よくやった」杉田さんが俺の頭をくしゃっとなでてくれた。
途端に俺は緊張の糸が切れた。涙がでてきてしまった。「いえ、その、ありが、ありがとう、ございます」
長門が上を向いてつぶやいた。「情報統合思念体との接続を確認」
はっとして長門を向く。
「長門!古泉を!」
長門が階段を駆け下りテーブルの残骸の中の古泉に両手をあてている姿を見ながら俺は座り込んでしまった。到底立てそうに無い。
おまけにまだ涙は止まりそうになかった。
朝比奈さんがまだ下着姿だったが俺の隣に来てくれて、肩に手を当て頭をなでてくれた。
「ありがとう、キョン君、頑張ってくれて」
「はい、いいえ」俺は肯定しながら首を横に振り、否定しながら首を縦に振り、落ち着くまで朝比奈さんの温かさを感じていた。



539 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/08() 02:50:16.17 ID:1B8Oa2wo



長門と一緒に古泉が階段を上がってきた。さすがにまだ古泉は辛そうだ。
長門が俺に近づき傷を手当てをしようとする。
「杉田さんが先だ」
俺の具合を確かめるように一瞬俺を覗き込む。
長門スキャン開始終了。かな?
すぐに目線を外し杉田さんに近づいた。
杉田さんが手を振って断る。
「すぐに死にゃしねぇ、まずは何か着て来い」
そうは言ったが、杉田さんは首筋やら顔やら肩やらを爪と牙でえぐられ引っかかれちぎられてかなりの出血だ。
「ダメです。すぐに長門さんの手当てを受けてください。私たちの事は後で良いですから」
朝比奈さんが自分の格好よりも杉田さんの心配を優先し大きな目で覗き込む。
長門も黙って杉田さんに近づき傷口にその華奢な手をあてた。
杉田さんは壁にもたれたまま黙って目を閉じされるがままになっている。
長門が全ての傷をふさいで一歩下がる。
「おわり」
奇妙な事が出来るんだな」塞がった傷口に触れながら杉田さんが言った。
そりゃそうだ、普通手を当てただけであんな傷が塞がるなんて常識的にはありえないからな。
「そうか怪我が治せるのか」誰に言うとでもなくぼそりと杉田さんがつぶやいた。
驚きよりも納得が優先するという不可解な表情を浮かべて杉田さんは長門を見た。
杉田さんは長門に今のことを問いただすことはせず目を閉じ押し黙った。
長門が俺のそばに来てその少し冷たい手を傷口にあてていった。
清水がしみこむ様な感覚があり痛みと熱が引いていく。
「助かったよ長門」
「助けてもらったのはこちら」
傷が治ったことよりもいつもどおりの長門の表情と態度にほっとする。
「夜明けまでまだ少し時間があります。お二人は涼宮さんの隣で起きてください」
古泉がそう言って朝比奈さんと長門を促した。
二人が部屋に入り扉を閉めると古泉が俺の隣に腰を下ろした。
「杉田さん、ありがとうございました。命を救われました」
「気にするな、子供を守るのは大人の仕事だ」



540 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/08() 02:50:43.21 ID:1B8Oa2wo



目を閉じたまま、杉田さんはそういった。
「それに
古泉が続ける。杉田さんが目を開けこちらを見た。
根掘り葉掘り聞かれなくて助かります」
「お前たちは娘たちを助けるために化け物と戦って勝った。違うか?」にこりと笑ってくれる。
俺だったら質問責めにするこの状況を一言で片付けてしまった。
なんというか、貫禄っていうのかこういうの?
「その、こちらの事情は聞かないようにして頂けたのに、こちらからお聞きするのは気が咎めるのですが
「俺にも娘がいたんだ」
古泉の質問を最後まで聞かずに杉田さんが答えた。
だがその答えに、もう娘さんはいないという事を古泉も気がついたようだった。
ユキという名前だった。名前だけでなく顔も良く似ててなぁ」照れくさそうに頭をかいた。
「十の頃だった。山へ入った俺についてきて足を滑らせてな
話している杉田さんに寂しそうな笑顔がよぎる。
「すぐに医者に連れて行ったんだが、ま、打ち所が悪かったんだろうよ」
「そうでしたか、ぶしつけな質問をしてしまってすみませんでした」古泉が頭を下げた。
「なもんで、お前たちのことが妙に気になってな」そう言って杉田さんは笑った。
「夜になっても中州にだけかかった霧が晴れねぇもんだから心配でつい来ちまった」
「そうでしたか
「お前たちも寝ろ、ひどい顔だぞ」
俺と古泉は顔を見合わせる。
自分の顔は分からないが、確かに古泉の顔は重病人が無理やり起き出して来たような印象を受ける。
杉田さんは立ち上がり折られたのこぎりを拾った。
「帰る前に俺の小屋に寄る時間があったら来い」
そう言って杉田さんは階段を下り、まだ夜が明けていない外へ出て行った。
「一眠りしますか」古泉がふらりとよろけながら立ち上がる。
そうだな。起きたらハルヒの相手とこの家具の運送に関して心配しなきゃならんからな。
俺たちはふらつく足取りで部屋に入り寝袋にもぐることもできず、広げた上に横になると目を閉じた。
疲れている。眠い。それは確かなのだが頭の芯だけ妙に覚醒していてどうにも眠たくならない。
すさまじい興奮状態から急に休息するというのはなかなか難しいな。



541 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/08() 02:51:08.86 ID:1B8Oa2wo



俺は無理には眠ろうとせず意識がゆらぐまま夜明けを待った。
………

夜が明けてきた、らしい。
窓の外が白んできたのが分かる。
ぱら
寝袋に入らずその上で横になっていた俺の顔に何かが落ちてきた。
どうやら天井の漆喰のかけらだ。
ぱらぱらぴしっ!
天井にひびが入った!
「古泉起きろ!」
古泉が一瞬で起き上がり周囲を見回す。
見る見るうちに壁にひびが入り柱が裂け始める。
「涼宮さんたちを!」古泉が言って隣の壁を蹴る。あっさり壁が崩れ落ちる。
もうもうと舞う砂埃のなかに突撃すると長門は既に起きており突っ立っていた。
動けよ。
「ふわ?なんでうか?」寝ぼけ眼でろれつの回らない朝比奈さんを古泉が寝袋ごと抱き上げる。
長門がハルヒを指差す。
俺が抱えろって事か?いや迷っている時間は無い。
ハルヒを寝袋ごと抱えあげる。
「外へ!」
古泉の声に急かされ俺がドアを蹴るとドアばかりか壁ごと倒れた。
長門はまるで慌てた風もなくすたすたと歩く、なぜ落下物に当たらない?
俺と古泉は抱えた二人に物が当たらないように覆いかぶさりながら階段を急いで下りた。あいたっ!色々降ってくる。
「ちょっとキョン!何してるの!?放しなさい!」タイミングの悪いヤツめ!階段の途中で目を覚まし騒ぎ出しやがった。
こら!ジタバタするな!落ちるぞ!
「地震です!」古泉が嘘を叫ぶ。
「キョンもっと急ぎなさい!」落とすぞ。
全員が玄関を飛び出したところで館が崩れ落ちた。
風と共にものすごい埃が舞い上がる。
埃に追い立てられて離れた場所まで走った。



542 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/08() 02:51:39.05 ID:1B8Oa2wo



どうやら、主が死んたところに夜が明けて館も崩れ落ちたと見える。
「キョン戻って」崩壊がある程度落ち着いた頃を見計らってハルヒが言った。
俺はハルヒを抱えたまま館に近づく。
うわー、何もかも粉々だな。柱とかぼろぼろになってる。まるでダムの底に60年ほど放置しておいたらこうなりそうな具合だ。
って実際そうだったな。
「荷物と家具はどうなったのかしら?」
まさか掘り返せとか言うんじゃないだろうな
「当たり前じゃない」
荷物はともかく家具は諦めろ。
そう言った俺にハルヒが文句を言おうとした時だった。
俺たちのいるダムの底に朝日が差し込み始めた。
細い細い光の筋が次第に太くなり明るさを増す。
陽が昇る。
たったそれだけの単純な珍しくもない毎日起こる現象なのに、今周囲で起こっている現実はハルヒの口すら沈黙させる感動的な光景だった。
「うわぁー」古泉からおろされた朝比奈さんが感嘆の声を上げる。
見る見るうちに光は俺たちを包み込み世界が太陽の時間になった事を高らかに宣言する。
ハルヒも抱えられたまま大人しく朝日に包まれ眩しそうに目を凝らしていた。
山々の緑に日が当たるとこんなに綺麗な緑色になるとは思わなかった。
夜の世界で死に物狂いで戦い、なんとか辛うじて生き残った今日という日に感謝の気持ちが湧き出るくらいだ。
自分が生きていることがしみじみと実感できる。
「で?お二人はいつまでそうしておられるつもりですか?」
古泉の微笑ましい口調にハルヒと目が合った。
「キョン!いい加減にしなさい!早くおろしなさいよ!」ぴこぴこと寝袋の中ではねる。
まるで俺が無理矢理抱いていたような言い草だな。心外な。とにかくおろすから動くな。
古泉のくすくす笑いが後ろから聞こえるが気のせいだ。気のせいじゃなかったら後でトランプでヤツの財布の中身を全部巻き上げてやる。
「まったくもう」ぶつぶつ言いながら寝袋を脱ぎ捨てようとしていたハルヒの動きが止まる。
ぺたん。ものすごく不機嫌な顔で腰から下を寝袋に入れたまま座り込んでしまった。
なんだ?
「キョン、あたしの荷物探して来なさい」



543 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/08() 02:52:07.64 ID:1B8Oa2wo



何となく寝袋に隠されている部分が想像できてしまった。
「何考えてんの?!早く行きなさい!」
ハルヒの下着姿を想像していた俺は頭の中を的確に指摘されて妙に気恥ずかしくなり瓦礫の山をめざした。
古泉もついて来て二人で発掘作業を始める。
「大変な合宿でしたね」汗を拭きながら古泉が言う。
「今も大変だ」
ぼろぼろになったとは言えそれなりに大きな館の残骸だ、そうやすやすと目当てのものが見つかるわけも無く俺と古泉は部屋のあった辺りを掘り返した。
手袋も道具もなしで掘り返すこと数時間。ようやくハルヒの荷物だけは見つかった。
「ほらよ」
「向こう向いてなさい」
こいつはありがとうという美しい日本語を知らんのか?
俺は背を向けると他の荷物の発掘作業に戻った。
すぐに短パンをはいたハルヒがついてくる。
「あたしは家具を掘り返すから荷物を見つけたら手伝うのよ」
そう言ってハルヒは瓦礫の中に突進していった。その後を朝比奈さんと長門がついて行く。
少し見ていたらハルヒは手当たり次第にぽいぽい瓦礫を放り投げている。
あんなランダムな探し方で見つかるのかね?
俺と古泉はハルヒの荷物が見つかったところの近辺を重点的に探し昼ごろには埃まみれになりながらもなんとか全員の荷物を掘り起こした。
「飯にしよう」
「そうですね、さすがに堪えます」古泉も同調した。
くらくらして血糖値が下がっているのを実感できる。俺も古泉も昨日というか今日未明までかなりの出血をしていたから貧血もあるかもしれない。
さすがの長門様も無くなった血液の補充は無理だったらしいな。
荷物の中からすぐに食えるものを探し出す。
うーむ、チョコくらいしかないな。しかし贅沢は言ってられず俺と古泉は板チョコを半分づつ分けて口に入れた。
うまい!
甘いという味覚よりもうまさが上回る。しかしなまじっか少量の食べ物を胃に入れてしまったせいで自分がいかに空腹なのかを実感してしまった。
もはや飢えと言って構わないほどの空腹感、いや飢餓感だ。
古泉も同じだったらしくかまどに火をおこしフライパンに厚切りのハムを放り込み始めた。
「こらー!あたしにも寄こしなさい!」砂煙を巻き上げてハルヒが突撃してくる。
あまりの勢いにハルヒの走行ルートから一歩引く。



544 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/07/08() 02:52:37.74 ID:1B8Oa2wo



「いただき!」
走りぬけざまにハルヒがフライパンの中のハムを一枚手づかみする。パン食い競争でもあるまいに。よく熱くないな?
「あつー!」そりゃそうだ。
朝比奈さんと長門もやってきた。
全員で料理を始める。
この後は帰るだけだからということで持ってきた食材を全て使い切って朝食兼昼飯を作ったのだが量はあまり大したことが無く俺は空腹感をもてあましていた。
「家具はどうでした?」古泉が聞いた。
「ダメね。丈夫に見えたんだけど中身が腐ってたみたいにぼろぼろになってたわ」意外に未練なさそうなハルヒの言葉に少し驚きながらもほっとした。
どうやら家具も主と運命を共にしたらしいな。木製の家具が60年水に浸かっていたらぼろぼろにもなるだろうよ。
「さ!帰るわよ!」
食べ終わりハルヒがさばさばした口調で宣言する。
行きよりも軽くなった荷物を俺は背負い先頭を歩くハルヒの後に続いた。
立ち止まり振り返る。
60年間かけて崩壊するはずが一夜にしてその時間がのしかかった館の残骸に俺は目を向けた。
まるでここに来たのが何週間も前の出来事のように思える。
60年間孤独に水の底で復活を待っていた吸血鬼。
そいつに俺たちは殺されそうになった。
本当に危なかった。杉田さんが来てくれなければ全員ヤツに殺されていただろう。
恨んでこそ当然、惜しむなんてもっての外だ。
だが、なんだろう、俺の今の感情は。
生きているヤツのエゴだと言われるかもしれん。
勝ったから言える見下した態度かもしれない。
けどなぜだか崩壊した建物と一緒に埋まっているであろうヤツにどうしても憐憫の情が少なからず湧く。
戦友とは違うのだが、なんだろうこの気持ちは。
俺は名前の付けられない自分の感情に戸惑った。
荷物を降ろし瓦礫の山に駆け寄る。
手近にあった長めの木材を持ち上げて瓦礫の隙間に押し込み立ち上げた。簡単に倒れないように大き目の瓦礫を根元に積み上げる。
瓦礫の中に一本、朽ちてはいるが柱が立った。
ぱんぱんと手を叩いて皆のところに戻ろうと振り替えった。
4人が静かに俺を見て待っていてくれた。
俺は幾分照れながらも自分の荷物に駆け寄り背負う。
「キョン、次があるわ!」ハルヒがなにを勘違いしたか声を掛けて歩き出す。
「キョン君、やさしいですね」朝比奈さんが隣に来てこそっと耳打ちしてくれた。
「墓標ですか。よくよくお人が良いんですね」古泉が半分呆れ顔で笑っている。
「ユニーク」長門本と一緒にするな。
やれやれ、皆さん色々とご感想をありがとうございます。
けどな、俺は俺のしたいように行動しただけだ。
間違っているかもしれないし、矛盾している行動かもしれない。しかし俺は俺の判断力を信じる。
俺は今度は振り返ることなく帰り道への一歩を踏み出した。





涼宮ハルヒの純潔 完結編 を見る
posted by テリヤキ at 00:34| 京都 ☁| Comment(5) | 2ch | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
終わり?
Posted by at 2008年07月03日 22:01
んなわけww

今から更新するお
Posted by テリヤキ@管理人 at 2008年07月03日 23:20
F5F5F5F5・・・・
Posted by at 2008年07月03日 23:30
やっとキター
Posted by at 2008年07月10日 14:45
終わりみたいね…
Posted by 出会い系サイト at 2008年09月11日 13:20
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。