2008年05月27日

涼宮ハルヒの誘惑 その2

涼宮ハルヒの誘惑 その1







120 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日: 2008/05/22(木) 04:45:04.92 ID:dR7RNs4F0


部屋が明るくなってきた。朝か…。ぼやけた意識で思う。

そして、もぞもぞと手を伸ばして柔らかくて暖かいハルヒを探す。ハルヒをさがす?!
がばっ!一気に意識が覚醒状態になる。
俺の部屋だ。
足元でシャミセンがぐぐーっと伸びをしてまた丸まった。
「おい、シャミセン、俺は昨日の夜ずっとここにいたか?」
耳をぴくぴくさせただけでもちろん返事はしなかった。
シャミセンの代わりに目覚まし時計がアラームを鳴らしだした。今日はすんなりベットから起きられそうだな。
しかしまだハルヒの重さと色々な感触が体に張り付いている。というか体が忘れられない。きっちり記憶している。
潤んで輝く瞳、健康的な背中、女らしい曲線、腕枕したときの重み、髪の匂い、抱きしめて感じた暖かさ、そしてやわらかさ。







121 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日: 2008/05/22(木) 04:45:30.10 ID:dR7RNs4F0


『は、恥ずかしいんだから早く!』
妄想の中のハルヒが再び下着姿で腕を広げて俺を呼んでいる。思わずそのハルヒを抱きしめようと俺から近寄る。
「あれー?キョンくんが一人で起きてる。えらいねーシャミ」
ベットの上で飛び上がるほど驚いた。ぐがげぎが!
「あはははー!ぐがげぎが♪ぐーぅがぁげぇぎぃがぁがぁがぁ♪」妹がシャミセンを抱えて部屋を出て行った。

うぁー。まだ動悸が治まらん。やれやれ。
とりあえず顔を洗い歯を磨く。鏡を覗いたら妙な顔をした自分がいた。
てめぇ、少しばかりにやけてないか?
朝飯を食っていつものごとく学校へ向かう。
歩きながら考える。まるでギリシャの哲学者のようだが内容は下世話なもんだ。







122 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日: 2008/05/22(木) 04:46:04.65 ID:dR7RNs4F0



夕べの記憶は夢…ではないだろうな。

現実だとしたらあそこはどこだったんだ?閉鎖空間とも違っていたし。ハルヒの意図はなんだったんだ?
なんにせよいつものごとく巻き込まれたことには間違いない。巻き込まれた本人が現状を客観視しようとしても難しかろう。

説明してくれそうな人物には心当たりがあるし放課後部室で聞けば良いだろう。
哲学者の真似はやめだ。なによりこの坂をのぼりながら脳みそにまで負担をかけるのは心身ともに疲弊する。
教室について自分の席に着く。ハルヒはもう座っていた。
憂いた顔で頬杖をついて窓の外を見ている。
なんというか、自然と頭の中に昨日の下着姿と目の前のハルヒを重ね合わせてしまう。
無言でいるのも自分で意識しているのを認めるようでくやしい。
「よぉ、眠れなかったのか」



134 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 08:10:40.41 ID:dR7RNs4F0



「え?眠れたわよ。あんたに…」

目線が重なった途端、ぼぉんという擬音が聞こえそうな勢いでハルヒが赤くなる。つられてこっちも昨日の記憶がさらにまざまざとよみがえる。

「なんでもない!」
やはりハルヒも昨日の記憶はあるようだ。幸いまた夢だと思ってくれているようだから俺が意識しないようにしなければ。

昼休み、説明してくれそうな人物その1が向こうから近づいてきた。古泉がにこやかに片手を挙げる。
「少しお時間をいただいて良いですか?」周りの一部の女子が古泉を見て浮かれたような声でささやきあいだす。
「場所を変えよう」俺は席を立ち教室を出た。
屋上までつづく階段の踊り場まで来る。かつてハルヒにネクタイをひっぱられながらSOS団創設の協力を強制させられた場所だ。

なつかしいな。んなことはともかく。
「ありゃなんだ?」





135 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 08:11:17.09 ID:dR7RNs4F0



「その質問は僕がしようと思っていたところですよ」くすりと古泉が笑う。

ということはやはり閉鎖空間じゃなかったんだな?
「閉鎖空間の別バージョンとでもいいましょうか。とにかくいつものストレス発散の閉鎖空間ではありませんでした」
確かに灰色でもなくて無機質な印象もなかったな。神人も…まぁいなかったし。

そういや赤い光を見なかったな…。
…!
「お前、中にいたのか?!」思わず語気が強まる。
「いいえ、入ってません」ほっとする。
「侵入しようと試みてはいたんですがね」なに?
「以前涼宮さんとあなたが閉鎖空間に閉じ込められたというか、アダムとイヴになった時、僕は仲間の全ての力を借りてやっともぐりこみました」





136 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 08:11:47.73 ID:dR7RNs4F0



そんなことを言っていたな。アダムとイヴは余計だ。

「失礼。しかし昨夜の閉鎖空間は違っていました。どんなことをしても侵入できなかったのです」
そりゃよかった。
よくよく考えたらあんな状態を他人にみられるのはとてもじゃないが恥ずかしい、いや腹ただしい。
ん?なぜ俺は腹が立つ?ハルヒの下着姿を誰かに見られると思ったら腹が立ったぞ。
ここは恥ずかしいの感情だけが立つところじゃないのか?
「あの中でなにがあったんですか?」古泉が聞いてくる。
ないない何もない、特に何もない。
ハルヒと二人だったのは認めるが特別なことは何もなかったぞ。そう、何もなかった。
最初驚いて、適当にしゃべって、寝たら元通りになってただけだ。





137 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 08:12:45.49 ID:dR7RNs4F0



俺の超簡易な説明をそれでも興味深げに聞いていた古泉は少し考えた。

「神人を消すと閉鎖空間も消滅することはご存知ですよね」
ああ、ご存知だ。
「あの閉鎖空間はいつものとは違い大きくなりません。そしてお話を伺うに神人も中には存在しない」
ああ、神人はいなかった。ま、言う必要もないから黙っているが、…女神はいたぞ。

「なので閉鎖空間を消滅させる方法が分かりません」
別に大きくならないなら害はないんじゃないか?そのままにしておけよ。
なぜか俺はあの空間がとても大事な気がしてつい擁護にまわる。
俺の態度を見て古泉がしたり顔でにっこりする。何をさとりやがった?
「危険がないと判断できればそのままでも構わないと僕も思います。しかし」





138 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 08:13:19.28 ID:dR7RNs4F0



しかし?
「中の状態を確認しないことにはその判断は出来かねる、と考える上の人間もいるんです」
頭のかたい上司だな。害のないものは放っておけよ。
パンドラの箱をしらんのか?藪をつついて蛇どころか鬼が出てきたような史実は数多く存在するぞ。
「まったくそのとおりです。ですから中の様子を安全に確認するには戻ってきた人物に聞くことです。もちろんその人物が信用に値する人格の持ち主であることは大前提です。そして私はあなたがそうだと思っているんですがね」

持ち上げてもこれ以上の情報は提供できないぜ。それにお前の言う人格者はお人よしと同義に聞こえる。
次には、なのでどんな空間だったか教えてくれませんか?とでも言いそうだな。
「なのでどんな空間だったかおしえてくれませんか?」にこやかに復唱するな。
とにかくあれには危険はない、お前の頭の固い上司にそういっておけ。
話は終わりだ。俺は階段を降りはじめた。廊下での別れ際、古泉がこう言った。





139 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 08:13:41.04 ID:dR7RNs4F0



「あの空間はいったいいつ消滅するんでしょうね。それじゃ」

知るかそんなこと。何より今俺はあの空間がとても大事にした方がいいような気がしている。いや、大事にしたい。
何より誰にも迷惑をかけていないんだ。そっとしておいてくれ。


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放課後、やっぱり自然と部室に向かう。何なんだろうね。習慣になっちまってる。
今日はハルヒは掃除当番なので少し遅れてくるだろう。
部室の前に立ちドアをノックする。
「はぁい、どうぞ」朝比奈さんが返事をしてくれた。
入ると昨日とは違い既に古泉も長門もいた。
「今お茶入れますね」メイド服の朝比奈さんがぱたぱたとお茶の用意をしてくれた。



164 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 14:33:13.94 ID:H5oAZNUQ0



よかった。昨日の今日だから着替えてなかったら変に意識してしまうところだった。着替えてくれてありがとう朝比奈さん。カチューシャがよくお似合いです。

ことん、朝比奈さんがにっこりしながら俺の前にお茶を置いてくれた。湯飲みから昇る湯気に心が温まる。
ぱたん。長門が本を閉じた。
部活終了の合図…じゃ、無いよな。
小さな音なのに何故か室内に緊張した空気が漂う。
朝比奈さんは小動物のごとく敏感にその空気を感じ取ってお盆を抱きしめ壁際にすすすっと引いた。あら壁の華。
古泉は完全に傍観者を決め込んでやがる。にやけ顔がむかつく。
長門のダイヤモンドダストの目が正面から俺を見つめた。体温が下がる気がする。
説明してくれそうな人物その2だが、こうも正面からこられて正直腰が引けてます。
「本日未明 午前1時32分18秒から1時間26分46秒の間、涼宮ハルヒとあなたの存在を確認できなくなっていた」





165 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 14:33:55.01 ID:H5oAZNUQ0



ニュースを読み上げるみたいに言わないでくれ。

「昨晩できた閉鎖空間の内部を観察することが情報統合思念体にも不可能だった」
なに?神と言って差し支えないような長門の親玉にも侵入できなかったのか。
「現状ではあの空間の内部情報を持ち帰ることができるのは涼宮ハルヒとあなただけ」
見られていないのをほっとするのと同時に宇宙の中で俺とハルヒしか入れないあの部屋がますます貴重なものに感じる。
「どうやら本当に完全な不可侵空間のようですね」古泉がにこにこしている。
「情報統合思念体はあの空間の内部情報を手に入れたがっている」うげ。なんつーピーピングトムだ。
「私という固体もあの不可侵空間の内部を知りたいと思っている」
こら長門、女の子がはしたないぞっ。
「………」





166 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 14:34:28.67 ID:H5oAZNUQ0



いや、特にたいした空間じゃないぞ、ほんとに。こら古泉なにを笑っている。

俺は閉鎖空間、というかあの丸い部屋の様子を、部屋の様子だけを、古泉にしたよりも少し詳しくわたわたしながら長門に伝えた。

「ふわ〜不思議なお部屋ですね〜」お盆を抱きしめたまま俺たちの話を聞き入っていた朝比奈さんがため息とともに感想を述べる。

いや、興味を持つようなもんでもないですよ。絨毯の肌触りは秀逸でしたが、観光名所になりそうな特徴は皆無でしたから。

というわけだ。納得してくれたか? ちら。
ダイヤモンドダストがまだこっちをみてるよ〜。冷や汗が背中を伝わる。
「内部での涼宮ハルヒとあなたの行動を知りたい」ぐぼはっ!
言わなければいけないか?
「あなたに言う義務はない。あなたはあなたの思う通りに行動してよい」
お言葉に甘えさせていただきます。言えません。





167 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 14:34:52.07 ID:H5oAZNUQ0



「残念です」古泉お前はだまってろ。
「あなたの言う丸い部屋はまだ存在している」そうなのか?古泉のほうを見るとにこやかに頷いた。
しかし存在していてもなにも問題はないだろう?部屋が悪さをするわけではないだろうに。
「場所に問題がある、出現した場所が地球で言うエネルギーが飽和状態になっている場所だった」
なんだ?火山の噴火口とかか?
「ここですよ」古泉の人差し指が垂直に下をさしている。
「今まで飽和状態だったところの位相空間に突然出現したんです。出現した閉鎖空間の中に今まであったエネルギーが流れ込めればそれ程でもなかったんでしょうが、いかんせん外からのありとあらゆる侵入を絶対に許さない閉鎖空間でした」

古泉の説明を聞いて、お湯がいっぱいの風呂に飛び込む絵が浮かんだ。ざばー!
で、どうなるんだ?
「あふれ出したエネルギーが予測不可能な振る舞いをこちらの位相でする可能性がある」事実を冷静に長門が言う。



196 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 18:26:33.79 ID:H5oAZNUQ0



具体的には?
「わからない」背筋が凍った。長門にわからないと言われると絶望を味わえるな。
ニヒリストを気取っているヤツは長門の前に10秒も立たせればコロリと宗旨替えするだろう。
古泉、お前昼休みにこんな事一言も言わなかったな。
「実体験に勝る言葉はありません。現実がどのように歪められているかあなたに直接経験していただこうと思いまして」様になる肩のすくめ方。

「そうすれば閉鎖空間を閉じようとする意図にも少しはご尽力をいただけるかと」にこり。
お前はあの部屋が消えなくてもいいと言っていただろうが。
「ええ、危険が無いと判断できればという条件付きですけどね」政治家の答弁みたいな受け答えだな。お前が立候補しても俺の投票は期待するなよ。

「ちなみにそのお茶」俺の未来への宣言をさらりとかわして古泉が俺の前に置いてある湯のみを指差す。
「飲んでみて下さい」





197 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 18:27:04.31 ID:H5oAZNUQ0





頬をたらりと汗が伝わる。

今までの前振りを考えるとどうしてもこのお茶が普通であるとは思えない。
お茶を煎れてくれた朝比奈さんを見る。このお茶になにか細工は…

ふるふる。お盆を抱きしめながら巻き毛が左右に揺れる。
「い、いえ、私は何も、普通にいつも通り煎れただけです。特にこれと言って。あの、本当です」
いや、すみません、朝比奈さんを疑ったわけではないんです。ありがたく頂きます。
色、普通。
匂い、特に変とも思わない。
手に取る。覚悟を決めて一口含む。
…味、うまい。いつもの朝比奈印の味がいたします。





198 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 18:27:38.96 ID:H5oAZNUQ0



ただし、…不自然に温度が高い。

煎れてもらってそれなりに時間が経っているのに煎れたての様な湯気を上げている。
「如何です?」古泉が晴れやかに聞いてきた。
結構な御点前で。
「お粗末様です」朝比奈さんが慌ててぺこりと頭を下げる。
「このようにエネルギー保存の法則が崩れかけています。今はこちら側の空間ではこの部室だけですがそのうち影響は校舎の外まで波及すると思われます」

文字通りの茶番を朝比奈さんとやっている場合ではない気がしてきた。朝比奈さんは大まじめに受け答えしてくれたみたいだが。

「長門さん、最終的にはどのくらいまでこの影響は広がりますか?」
「この街の郊外付近まで波及すると思われる」やぁ日本全体とかじゃなくてよかったよかった。
「長門さんは先ほどからお茶に口をつけていませんね。何か問題でも?」





199 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 18:28:05.26 ID:H5oAZNUQ0



古泉の言葉に朝比奈さんがびくっとする。
「あ、あの、何か不手際がありましたか?」おずおずと朝比奈さんが聞く。
長門は自分の前に置かれていた湯のみを持つと中が見えるように朝比奈さんに傾けてみせた。
朝比奈さんが口に手をあてて悲鳴を押さえ込んだ。
必然的にお盆が床に落ちる。からからからから…

あれだけ傾けたら中身がこぼれそうなものだが、なぜだ?
長門がすーっと腕を動かして俺にも中身が見えるようにしてくれた。
見事に凍っていた。おいおい、冷気がこぼれているぞ、そのお茶何度なんだ?
「マイナス183.5度」
再び朝比奈さんが飛び上がって後ざする。



204 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/22(木) 18:41:10.86 ID:H5oAZNUQ0



床を見つめて泣きそうな顔。潤んだ大きな瞳の見つめる先には先ほど落としたお盆が…まだ回っている。
からからからからからからからからからからからから…

止まりそうで止まらない。おいおいおい、明らかにおかしいぞこれは。自分が培ってきた常識とやらがぐらぐらと揺れ出すのがわかる。

古泉がお盆に近づいてひょいと持ち上げた。
「今、この部屋でなら簡単に永久機関が実現できそうですね」さすがの古泉でも浮かんでくる苦笑を押さえる事が出来ないようだ。

お盆をくるりと回すと朝比奈さんに手渡す。おっかなびっくりに朝比奈さんが受け取った。
「あ、あの、こんな状態の時に涼宮さんが部室に入って来たらどうなるんですか?」朝比奈さんがおそるおそる疑問を口にする。

「予測不可能」長門が宣言する。
どっかーん!
部室のドアがぶっ飛びそうなほど勢いよく開いた。長門を除く全員の心臓が跳ね上がったと思われる。少なくとも俺のは飛び上がったぞ。



255 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 15:41:03.20 ID:lFbbKj+y0



「おっまったせー!!」ハルヒ!
待ってねぇ!というかぶっちゃけ今は部室に来て欲しくなかったぞ。
しかもなんつータイミングで入ってくるんだよ。長門の宣言直後だ。文字通り何が起こるか分からん。
って!もう起きてるー!!!!
朝比奈さんが硬直する。
ハルヒが自分の席に向かって歩いてゆく。その通りすぎた空間に言葉にできない様な魑魅魍魎が浮かんでは消え、浮かんでは消えている。

筆舌に尽くしがたいぞこれは。かろうじて認識できるものでも、くじら、カーペット、手、犬の首、巨大なろうそく、下駄箱、救急車、無茶苦茶だ。

全く何の脈絡もなく無秩序にありとあらゆるものがいびつな形で互いに混じり合い、喰らい合いながら空中に飛び出しては溶けてゆく。

しかも全く音を立てない。誰かが見た酷い悪夢を何種類もぐたぐたに混ぜ合わせて無理矢理見せられているようだ。
ハルヒ自身は自分の真後ろの事なので全く気がついていない。いや、これは気がついてもらっては困るのだが。





256 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 15:41:29.05 ID:lFbbKj+y0



しかしこれには度肝を抜かされた。俺だけではなくさすがに古泉もそうらしくいつものスマイルも貼り付けたようだ。

ハルヒが椅子に座る。途端に悪夢が覚めたように百鬼夜行はなりを潜めた。
どうやらハルヒが移動すると現れるようだな。ほっとする。じっとしていろよハルヒ。
ハルヒがPCの電源を入れた。一瞬でPCが立ち上がる。

「あら?今日は早いわね」PC空気読め!ひいた冷や汗がまた噴出す。

「キョンも見習いなさい。あたしは打てば響く様な団員が好きよ!」
無機物を見習えと言われても素直にうなずく気にならんわい。が、今は状況が状況だ。素直に首を縦に振っておく。
「みくるちゃんお茶」ほっ…、PCの異常スペックアップに疑問をもたないでくれた。密かに胸を撫で下ろす。

「あ、はい!」魑魅魍魎に完全に骨抜きにされた朝比奈さんがハルヒの言葉にぴょこんと飛び上がってお茶を煎れる。
そしてお盆に乗せて歩き出そうとして立ち止まった。俺、古泉、長門の3人がお盆に乗っている湯のみを注目していたからだ。





257 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 15:41:52.89 ID:lFbbKj+y0



朝比奈さんに目配せ。(大丈夫ですか?変なものになってませんか?)

珍しくアイコンタクトが通じたようだ。こくこく。壊れた人形のようにぎくしゃくとうなずいてくれた。
朝比奈さんがゆっくり湯飲みの中を確認。うわぁ泣きそうな顔になっちゃった。
あぶなっかしく片手でお盆を持ち、人差し指を俺に向けてくるくると回した。
田舎のトンボとりを思いだすな。いや、どうでもいい。
どうやら湯のみの中のお茶の渦が止まらないとみた。
どうする?長門を見る。
ナノ単位でうなずいた。大丈夫という意味にとるぞ。いいな?
古泉を見てみる。アルカイックスマイル。役に立たんやつめ。
朝比奈さんにうなずき返す。(大丈夫です。そのまま持っていってください)





258 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 15:42:24.69 ID:lFbbKj+y0



メイド服の未来人は良いんですか!?とばかりに大きな目を丸くする。

朝比奈さんがものすごく緊張しているのが手に取るように分かる。お願いします、こぼさないでくださいよ。
回り続けるお茶が湯飲みの外に出たらどんな振る舞いをするのか想像もできない。したくない。
本日この場においてはどじっこメイドは封印してください。
そんな周囲の心配なぞ露知らず、ハルヒはネットサーフィンをしている。
クリックすると一瞬で画面が表示されている。完全にストレスゼロの表示速度。さぞかし快適なネット環境だろう。
「おおおお待たせしました」
ハルヒの机の上に恐る恐る朝比奈さんが湯飲みを置く。ちゃぽん。
ゆっくり置いたにもかかわらず、お茶が跳ね上がる。ちゃぽん。また跳ね上がる。
朝比奈さんがまたこっちを見る。口をぱくぱくさせながら顔をふるふると左右に振る。



294 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 20:47:00.24 ID:lFbbKj+y0



言わんとする事は正確に分かります。
(わ、私もうだめです)
いくら何でもお茶が勝手に跳ねるのはまずすぎる。朝比奈さんに下がってとジェスチャーしながら俺はハルヒの湯飲みを取ろうと立ち上がった。

が遅かった!ハルヒが湯飲みを持ってしまった!
ぐびぐび。とん。
大丈夫か?気がついたか?固唾を呑む。
「明日の市内パトロールだけどこの方法を取り入れてみようと思うの」
ハルヒがディスプレイを指差す。
「良いんじゃないか」お茶が気になってろくに見ずもせずに返事をしてしまった。
「へぇ、珍しいわね。あんたがすんなり賛成するなんて」





295 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 20:47:25.46 ID:lFbbKj+y0



ディスプレイを確認するふりをして湯飲みを覗き込む。飲みきっている。気づかれなかったみたいだ。

安堵しながら改めてディスプレイを見てみる。
なんだこれは?方違え?
「簡単に言うと、どこかに向かう時それが悪い方向だったらいったん別の場所に行きあらためて最初の目的地へ向かうのよ」

おいおい、陰陽師のブームはもう去ってるぞ。
「何言ってんの?ブームの問題じゃないわ。我がSOS団は現代はもちろん過去から未来までもの知恵を集結して活動するの!」

ハルヒが立ち上がって俺に指をつきつけながら言う。
「考えてみたら不思議なものが常識的な行動をとるわけないのよ。不思議なものは不思議な行動をするから不思議なの。」

説得力がある様な無いような理屈だな。
「いいキョン?まっすぐな道をまっすぐ歩くのは不思議じゃないの」





296 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 20:47:49.34 ID:lFbbKj+y0



そりゃそうだ。
「まっすぐな道を横切ったり昇ったりひっくり返ったり消えたりするのが不思議なものよ。簡単でしょ」
完璧な理論。まいったか。と言わんばかりのハルヒ。
両手をぐーにして腰に手をあて片足に体重をかけて…あれ、このポーズは丸い部屋で

!!!!!!!
ハルヒの後ろに俺が現れた!!しかも裸!!!腰から下は透明になって消えているから幸いにして見えない。いや、何が幸いなんだ、いや幸いだろう。

すーっとハルヒの背中に向こうの俺が近づく。
志村うしろー!
違う!そこの俺、自重しろ!
向こうの俺が、魂の底から愛しく想う人を守るように優しくハルヒを抱きしめようとする。





297 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 20:48:12.33 ID:lFbbKj+y0



まずい!ハルヒの視界に入る!
しかし視界に入る寸前、向こうの俺はハルヒを抱きしめる直前で空中に溶けた。
「ん…!」ハルヒが声を出す。
ハルヒが腰にあてていた手を胸の前に持ってきた。右手を胸の上で握り、左手で押さえている。
?!見えなくなっただけで抱きしめられたのか?くそっ!…あれ?なぜ怒る?

ハルヒが俺をまっすぐ見つめてきた。あ、閉鎖空間で見せてくれた輝く黒曜石の瞳…。そして何かを確かめるように後ろを振り返る。

また、俺を見る。そして振り返る。
俺を探しているのか?
ハルヒを安心させたい。
他の事は頭から綺麗にすっとんだ。大丈夫だ、俺はここにいるぞ。ただハルヒへの想いに突き動かされて俺は一歩ハルヒに近づいた。





298 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 20:48:33.48 ID:lFbbKj+y0



はっとしたようにハルヒが俺を見つめてくる。あの時と同じ瞳だ…。見とれた。意識がふらりとした。俺の中で周りの景色がゆがむ。
違う!実際に歪んでる!

丸い部屋のなかだ!いや、部室に戻って来ている。
一瞬だが確かにあの丸い部屋に移動した。振り返り朝比奈さんと古泉の表情を確認する。確信。部員全員で一瞬だったが移動したんだ。

カメラのフラッシュが光る位の時間だったが移動したのは確実だ。まずいぞ、ハルヒをどうやってごまかす?
ぱたん。
長門が本を閉じた。
「じゃ、明日は駅前に9時集合よ!遅れたら罰金だからね!」
え?いいのか?今の現象にハルヒがつっこまない。正直つっこまれたら困るんだが。





299 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 20:48:59.32 ID:lFbbKj+y0



「今までは探すルートを決めてなかったけど、明日はあたしがルートを決めてくるわ。その通りに動けば必ず不思議なものは見つかるはずよ!」

まるで今の事が無かったように振る舞っている。不思議な事は今ここであったろうに。
まぁ疑問に思わないのであれはそれでいい。しかし…なぜだ?
「あ、あ、あの、じゃ、じゃぁお着替えしますね」朝比奈さんがまだ驚きから立ち直れていない顔で言った。
俺と古泉はとにかく回れ右をした。
廊下に出てドアを閉める。
「見たか?」
「はい、おっしゃっていた丸い部屋ですね」
「ハルヒはなぜ気がつかないふりをしたんだ?」
「あの完全不可侵空間は涼宮さんが望んだからできたものです」





名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 20:49:22.80 ID:lFbbKj+y0



それは言われるまでもないぞ。
「最も注目すべき特徴は外からの侵入を一切許さないということです」
長門の親玉すら不可能だったらしいからな。
「つまり誰からも見られない場所。見せたくない場所。涼宮さんにとってあそこは秘密にしておきたい場所なんですよ」
それで?
「自分の秘密の場所を指差して『今の見た?!』というのは自分自身に対してあまりにもデリカシーのない態度だと思いますよ」

なるほど、ハルヒが気づかないふりをしたのはわかった。だがそんな秘密にしておきたい場所ならなぜ俺たち全員が一瞬と言えど入れたんだ?

「それは」
がちゃり。
「さっ帰るわよ!」



308 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 21:15:13.64 ID:lFbbKj+y0



いつもの様にハルヒと朝比奈さん、長門、俺と古泉の隊列になって校門をくぐる。

その時、古泉がヤツらしからぬ素早い動きで校舎を振り返った。
古泉の勢いにつられて俺も振り返る。そして古泉の視線の先を追う。
「溢れ出しました」なに?!
SOS団の部室があるあたりから巨大な蒼い手が空に伸び上がる。
「神人の腕です」解説どうも。
古泉と俺はハルヒを確認する。いつも通り朝比奈さんと笑いながら話している。
長門がすっと前に出てハルヒと並んだ。朝比奈さんと長門でハルヒを挟んだ状態だ。
瞬間に理解する。長門はハルヒに後ろを向かせないようにしてくれる!
古泉が自分の手をはっと見る。「能力が使えます」やれ!





309 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/23(金) 21:15:30.25 ID:lFbbKj+y0



そのとき神人の腕が驚く程の速度でSOS団に掴み掛かって来た。

古泉が飛び上がりながら赤い光球に変身し、文字通り光速の動きで頭上まで迫ってきた神人の腕をみじん切りにする。
蒼い光の破片が消えてゆく空中で人間に戻りながら着地。変身してから戻るまで2秒なかったぞ。流石に感嘆。
ごうぅ!
上から風が吹き付けて来た。腕は消滅させても腕が動かした空気は止められなかったらしい。
「きゃっ」「わっ」「…」
頭上からの風という自然界ではありえないであろう現象に前を歩いていた三人は、いや二人は驚きの声を上げていた。
古泉はゆっくり立ち上がり前髪をピンとはねた。もちろんその下にはいつものスマイルを浮かべている。
けーっ格好良いことですこと!



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370 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/24(土) 03:09:15.14 ID:izVncKCt0



いつもの分かれ道で皆と別れる。
俺は角を曲がって最初の電柱にもたれて携帯をとりだした。
別にかけるわけじゃない。
ぶるるる…

誰からかかってきたか確認もせずに出る「公園だな」
『話が早いですね。お願いします』
いつもの公園に行くと古泉、朝比奈さん、長門が待っていた。
「朝比奈さんには校舎を出た時に何があったかは既に伝えてあります」
こくり。朝比奈さんが愛らしくうなずいた。
「さて、問題は明日です」





371 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/24(土) 03:09:35.86 ID:izVncKCt0



市内の不思議探索だな。
「そうです。長門さん、部室からあふれたエネルギーは今どのくらいまで広がりましたか?」
「市街地をすでに覆った。明日の午前9時36分に最大に広がりそこから縮小していく」

「完全に探索の時間と重なりましたね」
ということは?
「今までSOS団の不思議探索は不思議なものを見つけられませんでした。しかし今回ばかりは本当に不思議なものを発見してしまう可能性が出てきました。いえ、可能性が出てきたのではなく、涼宮さんが本気で不思議を望んだんです」

どうするんだ?不思議を発見させるのか?阻止するのか?
「笑って済ませられるような害の無いものであれば僕は問題ないと思いますが、部室で起きたような現象などは発見するべきではないと思います」

どうだ、長門、明日の探索で部室レベルの現象は市街地でも起きるのか?
「エネルギーは均一に分散するわけではない。局所的に集まり偏在する。極大値を取っている場所では部室レベルと同等の現象が起きると予測される」





372 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/24(土) 03:10:05.08 ID:izVncKCt0



じゃ、エネルギーが薄いところを狙って歩けば大丈夫ってことか?
「エネルギーはおおよそ道に沿って移動する」
道っておいおい、歩くからどうしたってエネルギーのあるところに突っ込んでいく事になるじゃないか。
「という事は部室レベルの現象が起きる極大値をとる場所というのは交差点と考えてもいいのですか?」
「いい」
なんてこった。明日は角を曲がる度にびくびくしなきゃならんのか。
………ちょっと待て。ハルヒもそうだが、この街で暮らしている人もあの手の現象を目の当たりにする事になるのか?
「なると思われる」
それまずくないか?おまけにその現象に対処している姿もみられちゃまずいだろう?何とかならないのか。
「交差点となると人の目が多すぎます。神人の出現も狩っている姿も隠すのはほぼ不可能でしょう」





373 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/24(土) 03:10:23.54 ID:izVncKCt0



ハルヒがそれらの騒動を見たら…大喜びするだろうな。

明日でこの世界とお別れか〜。ウェルカムトゥワンダーワールド♪
冗談じゃねぇぞ。
「あの…」
今まで成り行きを黙って聞いていたSOS団のマスコットがおずおずと手を挙げた。
俺と古泉と長門の3人に注目され、もじっとする。
「人がいなくなればいいんじゃないでしょうか?」
???????
「長門さん、この街すべての人達に何らかの理由をつけて明日一日だけ街の外にお出かけしてもらう事はできますか?」
珍しく瞬きをしてから長門は答えた。



374 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/24(土) 03:10:45.02 ID:izVncKCt0

「可能」
いやいや、それをやったらゴーストタウンでしょうな。そっちも怪しいですよ。
「事情を知っている人たちに街の住人をやってもらうんです」
「なるほど、それなら可能ですね」
合点がいったように古泉が長門に話す。
「機関を総動員します。長門さんのお仲間にもご協力願います」
長門がうなずいた。こく。
驚いた、機関とTFEI端末団の協力作戦だ。
「ちょっと皆さん待ってください」
古泉はそういって携帯電話でどこかに連絡を取りはじめた。




涼宮ハルヒの誘惑 その3 に続く
posted by テリヤキ at 00:14| 京都 | Comment(1) | 2ch | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今、確認したところによるとVIPの方はもう落ちてるみたい


パー速でやってます。
難民がんがれ
Posted by at 2008年05月25日 22:37
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