2008年05月31日

涼宮ハルヒの誘惑 完結

涼宮ハルヒの誘惑 その1


涼宮ハルヒの誘惑 その2


涼宮ハルヒの誘惑 その3


涼宮ハルヒの誘惑 その4


149 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/31() 02:57:41.05 ID:GDA8ZWEo



森さん達が階段から姿を消したのと入れ替わりに古泉が珍しくこわばった顔でエスカレーターを駆け上がってきた。

おい、エスカレーターは走るな。

「無事だったようですね」俺の顔を見てほっとする。あぁ、また森さんに助けられた。それよりも、だ。

「襲ってきたものの正体とわけ、ですか」話が早くて助かる。古泉は一息ついてから話し出した。

「あれもやはり部室から溢れたエネルギーです。ただし敵対勢力が意図的に歪めてあなたを狙うようにしましたがね」

おいおいおい、なぜ俺が狙われる。と言いかけて言葉に詰まった。

『あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る』

朝倉の言葉が思い出される。

「不思議探索中は気をつけていたんですが探索を終了してエネルギーが引いてしまった後を狙われるとは思っていませんでした」

森さんがそばにいてくれて助かったぜ。

「私は始末書ものです」肩をすくめた。

敵対勢力っていうのは長門の別派か?

「いえ、今回は我々機関の敵対勢力です」そりゃますます始末書の内容が賑やかになりそうだな。

もう今日は襲われることは無いだろうな?

「そろそろ街の人たちは順番に入れ替わり始めている頃です。なのでまずあの手のモノには襲われないでしょう」



150 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/31() 02:58:00.69 ID:GDA8ZWEo



最後にこんなイベントが待っているとは思わなかった。しかしハルヒの目の前ではなかったので自分の命が狙われたわりには俺は落ち着いていた気がする。

人間の慣れって恐ろしいな。そんなことをつくづく思いながら古泉と階段を降り、長門所望の洋書を買った。

これって備品と考えていいのか?まぁ長門自身が備品みたいに最初から存在したからいいか。いいのか?

朝のスタート地点に戻ってきて、何も見つからなかったにしてはハルヒはご機嫌で言った。

「今日は手応え感じたわ!すぐそばに何かいるって感じ。このまま続ければSOS団は必ず世界に名をはせる不思議発見をするわ!」

うーむ鋭い女だ。

「じゃ!解散!」

おニューの下着が入った袋を振り回しながらハルヒはハイテンションのまま後ろも振り返らず帰路についた。

「おい、古泉」俺はそう言って耳の後ろと口の中からスピーカーとマイクを外し渡した。

「あ、あのお洗濯してお返ししますね」朝比奈さんはマイクを洗濯するつもりらしい。

「そのままで結構ですよ」古泉が笑いながら朝比奈さんのマイクとスピーカーを俺が使っていたものと一緒にしてハンカチにきれいにくるんだ。

「さて、我々も帰りますか、さすがに今日はいささか疲れました」

「じゃぁキョン君、古泉君、長門さんお疲れ様でした」お行儀よく頭をぴょこんと下げて朝比奈さんも帰ってゆく。

」長門も首の角度をわずかに前に倒し、くるりと回るとマンションに向かって歩き出した。

「しかし、あの空間はいったいいつ消滅するんでしょうね。それじゃ」



151 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/31() 02:58:36.11 ID:GDA8ZWEo



別れ際にまた屋上への踊り場で言った台詞を口にして古泉も歩き出した。

今回ばかりは俺もそう思う。あの丸い部屋はどうやったら消滅するんだ?

自転車に乗り家に帰ると妹含め家族は既に帰ってきていた。

夕飯を食べて風呂にのんびり入ったら今日はもう何もする気がなくなった。

今日は殺されかけたんだ、休息が必要なのは自問しなくても当然だ。

あー、とにかく寝よう。

俺は早々に布団を被りベットに横になった。

大名行列も神人も蛇の流れも敵対勢力の暗殺者も、夢の中までは追ってこないだろう

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まぶしいな。部屋の明かりをつけたまま寝たんだっけ?

もぞまた起き上がって明かりを消すのが面倒くさかったので布団を被ろうと手探りする。

手の届くところには無い。

ん?

この手触りは……!丸い部屋だ!

伸ばした手に忘れがたい肌触りのよさを感じて飛び起きる。



152 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/31() 02:58:58.66 ID:GDA8ZWEo



最初に目に飛び込んできたのは白。一瞬目が見えなくなったのかと思った

完全に白なので遠近感が狂ったらしい。

だが部屋の中央にシーツで巾着になっているハルヒを見つけて安堵する。

どうやら丸い部屋は内装工事が入ったらしく以前と違い真っ白な絨毯で埋め尽くされていた。

あれ?

手で絨毯の感触を確かめていたら俺が寝ていたのとは別の場所、となりの絨毯が温かい。まるで今まで誰かがそこで寝ていたようだ。

ハルヒが寝ていたのか?

「ようやく起きた?」あぁ、起きた。

ハルヒが目線をそらして聞いてきた。うん、今日も俺はパンツだ。なんでだろうね?

「お前ずっとそこに座っていたのか?」「そ、そうよ、ここに座っていたわ、座っていたんだからね!」へいへい。

部屋を見回して思いついたのでハルヒに聞いてみた。

「ハルヒ、白なのか?」

「!」

白い下着なのかという意味で聞いてみたのだがビンゴだったらしい。

座ったままシーツをぎゅっと握りしめちょっと飛び上がった。



153 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/31() 02:59:18.69 ID:GDA8ZWEo



「見たの?!」

「いや、まだだ」

「まだって言うな!」うー

ハルヒが赤くなりながらうなってる。が、うなりながらも立ち上がった。まだシーツを頭からかぶり胸の前で握り締めている。

「こ、これキョンが似合うって言ったのよ」

そう言って両手は胸の前のまま、シーツを放した。

シーツは下に落ちず、ハルヒの頭から左右にきれい割れてその下に隠されていた女神の体を俺の目にあらわにした。

胸の前で両手を握り頭から白い布が広がっているのを見ると、その、服装としては全然違うんだが、花嫁、という単語が連想された。

おいっ俺は何を連想しているんだ?!どうにも脳のシナプスが変なところに接続するな。

ハルヒが黙って俺を見つめている。ハルヒだけに立たせているのが悪い気がして俺も慌てて立ち上がる。

正面からハルヒを見つめた。

黒曜石の輝きが一層光を増して俺の中のその奥にまで飛び込んでくる。距離はあるのにハルヒが目の前に立っているような錯覚さえする。

魂に刻まれる感覚、けどけっして不快ではない、むしろ好ましく感じ俺は自らハルヒの視線を受け入れた。

て」ハルヒが頬を染めながら、しかし視線はまっすぐのまま、なにかつぶやいた。

え?



154 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/05/31() 02:59:36.06 ID:GDA8ZWEo



にきて」

なんだって?

「迎えに来て!」

もう!といわんばかりにハルヒが言う。

さすがに聞こえた。

俺はなにやら厳かな気分になりながら、そして下着姿のハルヒに近づくという理由以上になぜか緊張しながら一歩目を踏み出した。

足の裏の絨毯の感触が心地よい、真っ白な世界の中、純白の下着を身にまとった輝く黒い瞳のハルヒにゆっくりと近づく。

近づくにつれハルヒが腕をゆっくりと左右に広げて俺を受け入れる準備をする。

俺も自然と両手を広げながらハルヒをつかまえる様に近づく。

シーツが落ちる。

ハルヒが下から抱きつく。俺はハルヒを抱きしめる。

決して忘れることができなかったハルヒの感触が今、再び俺の腕の中にあった。




185 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:14:28.36 ID:WuHXdKoo



欠けていた半分同士がぴたりと収まった気がする。まるで戻るべき場所に戻ってきたかのようなこの安心感。

俺はハルヒにまわしている腕に力をこめる。ハルヒも応えるように俺を引き寄せた。

ずいぶん長い間そうしていた気がする。お互いの体温が溶け合い同じになった頃、ゆっくりと俺たちは体を離した。

「何か言うことがあるんじゃないの?」ハルヒが伏し目がちに怒ったような顔で言う。頬はもちろん桜色。

「あー、そうだな」まぁ言うことは決まっているんだが、それだけに照れが入る。

ハルヒが俺の言葉を待っているのが分かる。体温は上がり心拍数も上昇の一途だ。

「その、よく似合ってる。綺麗だ」ぐぬぬー!言っちまった!なんでこんなに照れるんだ?!恥ずかしくて仕方が無い!

言われたハルヒもやはり恥ずかしかったらしい。嬉しそうな顔を怒り顔で隠そうとしたものの上手くいかず、その表情すら見られるのも恥ずかしいとみえて俺に背中を向けてしまった。

無言でハルヒの背中に立っているのもおかしな気がする。

こういうときの自然な行動って多分こうだよな?

俺は一歩ハルヒに近づき後ろからゆっくりとハルヒの体に腕を回した。一瞬部室で見た俺を思い出す。あんな風に抱きしめているんだろうか。

ハルヒは俺の腕を自分の体に密着させるように手を添えてきた。

ことん。

ハルヒがあごを上げ頭を後ろに倒し、俺にもたれかかる。

「はぁ



186 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:14:54.90 ID:WuHXdKoo



ため息とも吐息ともつかぬ、普段よりも温度の高くなった息をハルヒが口を小さく開けてもらした。

部屋と同じ白い時間が流れる。

「夢を見てるの

「あたしは今、夢を見てるの、誰にも話せない夢を見てる

自分に言い聞かせているのか今を確認しているのか、普段のハルヒからは想像もつかない静かな口調で話す。

だが今の俺にはその声が心地よい。目を閉じ、ハルヒの体温と匂いと肌触りとそして声を感じる。

「今は夢じゃない」俺は言った。

「覚めれば夢になる、けど見ている今は夢じゃない」

ハルヒがゆっくり、とてもゆっくりと俺に向き直る。

俺の首に手をかけて下からしっかりと見つめてくる。

黒曜石の輝きがなおいっそう増す。ハルヒは俺の首の後ろで組んでいた手を俺の頬に移動させる。

両手で俺の顔をやさしく挟み込み少し自分に近づけた。

「あんたは私の知っているキョン?それともここだけのキョン?」

俺は、俺は

今のハルヒに応えられる言葉を俺は持っていない。



187 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:15:18.35 ID:WuHXdKoo



俺の答えを待っているのか、自分で答えを見つけようとしているのか、ハルヒは自分の魂をかけて俺の魂と向き合った。

あまりにも純粋な想い、それが痛いほど分かるだけに応えられない俺は、この俺は、あろうことか目を閉じてしまった。

………


ハルヒが一歩後ろに下がった。自然に俺の頬からも手は外れる。

恐怖が沸き起こった。離れた距離は高々数十センチ。しかし俺には無限の距離をとられた気がした。

半分恐慌状態になりながら目を開ける。ハルヒは目の前にいた。

だが今俺から抱きしめてもさっきまでの距離には二人はならないと確信めいた直感がよぎる。

ハルヒは少しうつむいて頭をちょっと横に傾けた。

黒髪が下に向かい綺麗に下がる。

手櫛で何度か髪をすく。

そうしてハルヒは自分の髪の毛を一本だけつまみ上げて、抜いた。

俺の左手を取って自分の胸の前まで持ってくる。

そして自分の髪を俺の左手の小指に巻きつけて結んだ。

「もしも夢の続きが見られるならまだ見てもいいのならこの続きを目が覚めても見させて」



188 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:15:42.70 ID:WuHXdKoo



「この髪の事をキョンが忘れても、私は覚えているから」ハルヒはそう言って無限大の距離をゼロにしてくれた。

そして俺にそっと抱きついてきた。

優しくやさしく、決して強くは無い力で、けれどすべてを受け入れる包容力をもって俺を抱きしめてくれる。

(私を忘れないで、私はここにいる、あなたの腕の中にいるから)ハルヒの気持ちが俺に流れ込む。

言葉を持たない俺は、ただハルヒを抱きしめた。すまない!

(分かってる!もちろん分かってる!間違いなくお前はここにいてくれる!俺は忘れない!)

「キョン痛いわよ」

ハルヒの静かな抗議の声にも抱きしめることが止められず俺は腕に力をこめた。

くすりとハルヒは笑うと俺の頭を優しくなではじめた。

安心感が水のように広がる

俺は腕にこめていた力をようやく抜くことができ、ハルヒと見つめ合った。

「落ち着いた?」からっとした笑顔でハルヒが聞いてくる。

「あ、あぁ」落ち着いたよ。

「痛かった」まんざらでもなさそうな顔で苦情を述べる。

「すまん」ろくな言葉が出やしない。



189 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:16:07.59 ID:WuHXdKoo



「だっこ」再び俺の首の後ろに手を回したハルヒが思わぬことを言ってのけた。

えーっと、あれか、だっこって抱き上げることだよな。おんぶじゃないもんな。

「早く!」顔はやっぱ赤いのな。

よし、覚悟は決めた。行きます!

俺は屈んで片手をハルヒの両膝の裏に入れ、もう片手を背中に回して立ち上がる。

両腕にかかるハルヒの重さが今の俺には心地いい。

「歩いて」ハルヒは笑いながら俺に頬を押し付けた。

「以外に揺れるわね、それともあんたの抱き方が下手なの?」遊園地のアトラクションの感想みたいな事を言う。

知るか、こんな抱き方したことなければこのまま歩いたこともないわい。

しばらくハルヒにあっち行けこっち行けと言われるままに白い丸い部屋を歩いた。

「シーツはどこ?」

うーむ、そこらじゅう真っ白だから部屋の端に来ると全然分からない。

「多分真ん中あたりだろう」

「そこまで走って!」

足に力を入れハルヒを抱えて走り出す。



190 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:16:31.56 ID:WuHXdKoo



「きゃっ!わっ!」自分から言ったものの予想以上に揺れるらしくてハルヒは俺に必死でしがみついてきた。

よし!シーツ発見!

「もうちょっと壊れ物扱いしなさいよ」ぶつぶつ言いながら俺から降りる。

ばさっ

シーツを広げるとハルヒはその下にもぐりこみ、顔の上半分だけだして言った。

「腕まくら」

はいはい。

俺もハルヒの隣にもぐりこみ腕を伸ばそうとした。

ぽんぽん。

ハルヒが自分の胸の前辺りの絨毯を軽く叩く。ん?

「してあげる」

どかぁん!俺の顔が音を立てた位に真っ赤になるのがわかった。いや、その、なんだ、俺は、まぁ、あれだよ、なぁ。

俺が動けなくなっているのを見るとハルヒは俺に近寄ってきた。

俺の頭を両腕で抱え込むと俺の顔を自分の胸の谷間に押し付けた。

うわっっ!



191 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:16:56.81 ID:WuHXdKoo



や、やわらかい!いい匂い!ちょっと待て!変になる!脳の神経細胞が焼き切れる!

ハルヒがゆっくりと俺の髪をなで始めた。

途端にパニックが急速に静まる。

安堵と安心、心地よさが全身にいきわたる。

「ここにいた事を、忘れないで

ハルヒがそっとつぶやいた。

俺はハルヒに髪をなでられながらこれ以上は無いというくらいの充足した眠りにつき始めた。

ハルヒもう一度、抱きしめさせてくれ

-----------------------------------------------------------------------------------

携帯の呼び出し音で目が覚めた。

『古泉一樹』

このやろう、時と場所をわきまえろ。

しかも電話に出た途端わけの分からん事を言いやがった。

『おかえりなさい』

何言ってやがる今何時だと思っているんだ。



192 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:17:21.05 ID:WuHXdKoo



『何時だと思います?』

何時なんだ?」

『午前4時半を少し回ったところです』

「夜明け前じゃねぇか」

『一言労いの言葉とお礼を述べさせていただこうかと思いまして』

いらんいらん、お前からのそんなものをもらっても嬉しくない。

『丸い部屋が消えました』

なに?!

俺はようやく周囲を確認し今いる場所が自分の部屋だと認識する。

『どうされたかは分かりませんが、これで僕の肩の荷もおりました。ようやく寝られます』

こいつはどうやら今日も今日とて丸い部屋に侵入しようとしていたらしい。

「なぜ消えた?」俺は聞いた。

『さて、あなたの方がよくご存知のはずでは?』

今回ばかりはおとぼけは無しだ、お前の考えを聞かせてくれ。

古泉は少し間を置いて話し始めた。



193 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:17:48.32 ID:WuHXdKoo



『結論から言ってしまうと、あの部屋は役目を果たしたんです』

どんな役目だ。

『涼宮さんにとって誰にも見られたくなかった事ができたんでしょう』

俺は左手を見る。ハルヒの髪が小指に結んであった。

古泉の言っていることは、違う。直感的にそう感じる。

「古泉、もしもだぞ、夢の中で手にしたものが現実に現れたらお前はどう思う?」

古泉は沈黙した。

『その夢を現実だと認識します。涼宮さんもそう認識すると思いますよ』鋭いやつめ。

「相手が夢と違っていたら?」(俺が指に髪を巻いてなかったら?)

再び沈黙

『あれは夢だからで一蹴するでしょう、ただし』

ただし、なんだ?

『涼宮さんにとって「ただの夢」と割り切れる程度の事でしたら、あの丸い部屋はまだ消えていないはずです』

今度は俺が沈黙した。

『夢か、現実か、選択を任されましたね?』血の気が引いた。



194 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 00:18:20.03 ID:WuHXdKoo



古泉の声が悪魔的に聞こえる。

『丸い部屋が消えた理由はそれでしたか。もし夢の通りのあなたが涼宮さんの前に現れたら』

室温が下がった気がする。寒い。

『勘のいい彼女の事です。連鎖的に今まで夢だ催眠だで片付けてきた事も現実だと認識し』

古泉は冷静に続ける

『その結果、世界の物理法則は崩壊するでしょう』

現在の世界の終焉を古泉は淡々と述べた。

『また夢とは違った、つまり現実どおりのあなたが目の前に現れたら、涼宮さんはその事に絶望してこの世界の改変を始めるでしょう』

俺は左手の小指を見つめ続ける。

『涼宮さんはあなたに世界の行方の選択を託したんです』

どくん!俺の心臓がひとつ大きく脈打った。

『物理法則の崩壊した世界に全人類を引き連れてゆくか、それとも世界を再構築させるのか、あなたにお任せしましたよ』

俺は古泉に返事をすることができなかった。

『それでは失礼しますね。朝早くに失礼しました』

古泉が電話を切っても俺はしばらく動けなかった。



217 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 20:55:56.02 ID:WuHXdKoo



ハルヒに夢は夢だと説き伏せたとしてもハルヒにとってこの世界が色あせた世界になることは間違いない。

ハルヒは世界に、何より俺に落胆するだろう。ハルヒの気持ちを正面から刻み込まれた俺には丸い部屋での事を無かったことにするなんてできない。

だからといって全人類それぞれの意図もあり人生もあるのに、その全てをハルヒのためだけに完全にぶち壊し方向修正していいのか?

俺は夢の中の俺になればいいのか、現実の俺になればいいのか。

ハルヒに夢の続きを見せたいという気持ちはある。だが天秤にかけるにしては向こうの秤に乗っているものがあまりにも重過ぎる。

『キョンくん、がんばるにょろよ、人類の未来は君の肩にかかっているのだっ!』

いつか鶴屋さんに言われた言葉を思い出す。

鶴屋さん、本当に世界が俺の肩にのしかかってきましたよ。

けどはっきり言って重みでつぶされそうです。

俺は全人類の未来が結ばれた左手の小指を夜が明けるまで見つめ続けた。

-----------------------------------------------------------------------------------

その日は一日中考え続けた。それでも時間が足りなかった。俺は全人類の人生を左右してもいい程の権限を持っている人間なのか?

権限云々じゃない。俺に世界の進路を決められるような判断ができるのか?

俺はお前にどう応えればいい?なぁハルヒ

今日は妹に変呼ばわりされてもろくな反応ができない。



218 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 20:56:16.67 ID:WuHXdKoo



だが、どうしたって時間は刻一刻と過ぎ、太陽は傾き、そして夜になった。

明日には学校だ。ハルヒと一緒にとった眠りとは程遠い浅い落ち着かない眠りに俺は落ちていった。

-----------------------------------------------------------------------------------

朝だ。ほとんど眠れた気がしない。

だが情けないことにいつものルーチンワークで体は自然にいつもどおりの行動をとる。

ベットから起き上がり、顔を洗い歯を磨き、味の分からない朝飯を食べる。

玄関で靴を履く足がすでに鉛のようだ。

俺は学校への坂道の一番下から校舎を見上げた。

遠い、遠すぎる。今日ほどこの坂が苦痛に感じたことはない。

それでも俺は律儀に一歩一歩足を前に進め坂を登り始めた。

俺は自分の左手を見る。小指にはまだハルヒの髪が結んである。

この左手はなんて重いんだ。このまま地面に沈んでも不思議じゃない。

俺は自問する。

お前は世界を左右できるほどの人間か?お前が人類の未来を決めてもいいのか?

俺の答えは



219 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 20:56:38.88 ID:WuHXdKoo



……

………

…………

ノー!だ。

俺は人類の行方を左右できるような人間じゃない!そんな判断も出来ない!

できるとしたら俺自身がどうしたいかだけだ!

俺は決心し、ハルヒの髪の毛を解きポケットに入れた。

俺は、俺にできることは行動するだけだ!

教室でHRが始まるのを待っていると時間ぎりぎりにハルヒが教室に入ってきた。

ハルヒが俺を呼んだ「ねぇキョン」

俺は振り向いた。ハルヒの目が俺の目から左手へと移る。

泣くのか?!一瞬そう思わせるほどハルヒの顔に落胆の表情が浮かびあきらめへと変わる。

ハルヒの目の中で燃えていたシリウスの輝きが急速に冷えてゆく。

「なんでもない」

まるで入学当初のような、他人を拒絶し世の中全てに悪態をついていた頃のハルヒがしゃべっているようだ。



220 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 20:57:01.14 ID:WuHXdKoo



授業中も休み時間もハルヒは他人との関わりを一切遮断し完全に孤高になっていた。いや、なりたがっていた。

昼休み、いつものごとくハルヒは教室から出て行く。

その後すぐに古泉が教室の入り口に現れた。

俺は何も言わす屋上への階段の踊り場へ向う。

「閉鎖空間の発生がこれまでとは桁違いです」

何の前置きもなく、古泉がいきなり話し出した。

「このまま神人が暴れ続け閉鎖空間が発生し続けると今日の夕方には世界の表と裏が入れ替わります」

俺は黙って古泉の話を聞いた。

「あなたの出した結論はこれでしたか」

責めるわけでもなく、問いただすわけでもなく、古泉は本当にいつもどおりのスマイルでなんでもない事の様に言う。

「それじゃ、向こうの世界で、もしまたお会いできたら、その時はまたよろしくお願いしますね」

いつぞや聞いたような台詞をまた言い残して、古泉はまったくいつもどおりの歩調と後姿で去っていった。





221 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 20:57:21.07 ID:WuHXdKoo



放課後。

ハルヒが席を立った。俺も席を立つ。

掃除当番のクラスメイトたちが椅子と机を教室の端にずらし始める。

「ハルヒ」俺は呼び止めた。

「何よ」自分以外のものは全てくだらないと決めている口調と表情。

俺はハルヒに近づいて手を伸ばす。

ハルヒが怪訝そうな顔をして俺の行動を見つめる。

「何!」

「動かないでくれ」

俺は口調こそ荒げなかったが全身全霊でハルヒに頼んだ。

ハルヒの動きが止まる。俺はゆっくりとハルヒの髪に触れ、そのうちの一本を摘み上げて 抜いた。

「いたっ!」

驚いてハルヒが後ろに下がる。目には完全に怒りの炎が燃え上がっている。

「何のつもり?!」

俺は黙ってハルヒの目の前に今抜いた毛をたらしこう言った。



222 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 20:57:47.98 ID:WuHXdKoo



「結んでくれ」

炎が蒸発し黒い瞳が大きく開かれる。ハルヒが口を開けて硬直した。

「ここに結んでくれ」俺は左手の小指を立ててハルヒの前に差し出した。

ハルヒがロボットのような動きで自分の髪の毛を受け取る。

そして俺を見つめる。俺も見つめ返す。

見る見るうちにハルヒの瞳が輝きだし丸い部屋で見せてくれた俺の奥底にまで入ってくる光を放ちだした。

「なんで?あんたキョンなの?どうしてこんなことするの?」希望と不安と喜びとちょっとの恥ずかしさを混ぜてハルヒが聞いてくる。

「いや、何となくだ。けど、やってくれたら何か面白いことが起きそうな気がしないか?」

ハルヒはゆっくりとそしてしっかりと俺の左の小指にまた髪の毛を巻いてくれた。

俺はハルヒにその小指を見せながら言った。

「なぁハルヒ。SOS団はおもしろいな」ハルヒの瞳の輝きが増す。

「今度の市内不思議探索はついに何か見つかるかもしれん」全身からやる気のオーラが立ち上り始める。

「それか土日使って合宿とか行ってみないか?また古泉に企画やらせて」黒曜石が爛々としだす。

「これからも、きっと何か面白いことが起きるぜ」爆発するようなハルヒのやる気。

「行こう!!」



223 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 20:58:00.37 ID:WuHXdKoo



俺はハルヒの手を握り、教室を飛び出しSOS団の部室まで走り出した。

俺は確信している。ここが一番面白い!

ハルヒが傍若無人に振る舞い、朝比奈さんがわたわたして、古泉が太鼓もちをして、長門が傍観して、俺が尻拭いやら後片付けやらフォローやらで冷や汗をかいている、ここが一番面白い!

この決断は前もしたじゃないか、おれはここが好きなのだ。ここにいたいのだ。物理法則の崩壊も再構築もごめんだ!

「まいったか!俺はSOS団の団員だ!」

「何言ってんの!わたしは団長なんだからね!」

引っ張られていたハルヒが速度を上げて走っている俺に並ぶ。

ハルヒを見ると、瞳の中にアンドロメダ星雲を100万個詰め込んだような輝きを放ちながら眉毛を吊り上げ笑っている。

ハルヒの気持ちが今の俺には正確に分かる。

ここが一番面白い!

そしてハルヒも俺のこの気持ちを分かっていると断言できる。

俺とハルヒは手を握りあい、同じ気持ちでSOS団の部室まで全力疾走した。


                                    Fin



 



 



 



 



 



228 名前: ◆KMIdNZG7Hs 投稿日: 2008/06/02() 21:14:13.25 ID:WuHXdKoo



自分でも呆れるほどの遅筆にもかかわらずVIPから読んでくださった方々、wktkしてくださった方々ありがとうございました。
しかしwktkされると怖いですね。そのプレッシャーに押されてかき続けたような感じです。
仕事中にもちょこちょこ書いたりしてました。そのためはっきり言ってこの一週間、私の仕事の能率は確実に落ちてました。
これが査定に響いたらwktkした人は良心の呵責に押しつぶされてくださいwww
とにもかくにもありがとうございました。

さて次回のネタはこれ。

『僕の姉さんはVOCALOID

一人っ子だった僕に突然姉さんが出来る事になった。
なんとその人は緑の髪のVOCALOID!しかも僕の学校の音楽の先生に赴任!
少年とVOCALOIDを取り巻く青春はちゃめちゃ活劇!乞うご期待!



ごめんなさい、うそです。

では名無しにもどります。
本当に皆さんありがとうございました。ノシ


posted by テリヤキ at 04:48| 京都 ☁| Comment(6) | 2ch | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント


次も楽しみにしてる
頑張ってくれ
Posted by at 2008年05月31日 07:36
ワッフルワッフル!
Posted by at 2008年05月31日 18:03
ハルヒん!
Posted by at 2008年05月31日 20:11
生…殺し…だと…
Posted by at 2008年06月02日 03:24
『僕の姉さんはVOCALOID』

むっちゃ読みたいんだが・・・
Posted by   at 2008年06月20日 21:24
『僕の姉さんはVOCALOID』

ボカロネタをあたためていたのに
先を越されただと?
Posted by 書けよー at 2009年03月13日 21:39
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